夢の先

クレサ 様

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 しかし、まさかこうなるとはな・・・。
 クライン国の広場のベンチで、キール・セリアンはため息をついた。
 眩しい直射日光を避けたところにあるそれに腰掛けて、周りの風景をぼーと眺める。
 今ごろは外ではなく書物に囲まれて過ごしているはずだったのだが、
 「たまには日光浴びないとカビ生えて腐るよ」
と言うおせっかいな同居人がここまで連れて来たのだ。その言い出した本人、メイは隣りで寝息をたてている。
 自分が息抜きをしたいために俺を巻き込んだなと思いながらも、最近引越しだ、挙式だと忙しかったのは本当なので叩き起こすのは止めた。
 それにしても・・・・・・・・・・・・・・・・・・暇だ。
 本も持って来なかったし、話相手になりそうな奴も寝ているとなると、辺りを眺めるしかすることはない。
 目の前の人々は子供連れも多く、陽気も穏やかな中を楽しそうに通り過ぎて行く。
 家族・・・ふと隣りのメイの手を取り、そこにある指輪を確かめる。
 細くてちっぽけな金属の破片。こんなものでこいつを縛り付けて良いのか。後で「止めとけば良かった」なんて言うんじゃないか。石頭で鈍感で意地悪で(・・・とメイ本人によく言われていた)ちっとも優しくない人間といっしょになったって幸せになれないぞ。

 「でも、キール・・・」
 耳元で囁かれた言葉に、キールの心臓は背中まで響くように激しく叩かれた。
 一瞬メイが目を覚ましたのかと思ったが、言葉が続かないところをみると寝言だったらしい。

 安堵した途端、次の寝言が飛び出す。
 「・・・・ごめんなさい・・・」
 困った顔でそうつぶやかれると、ますます立場がない。
 おおかた課題で間違った箇所を指摘される夢でも見ているのであろう。
 はじめは不満げに文句を言うメイも、根気良く説明するキールによくこうやって謝っていた。

 そのうちメイの実力もついてきて、そんなやりとりもなくなっていったが。

 「ばか、夢の中でまで謝るな」
 小声で毒づくキールに反応して、メイがこちらにすり寄ってきた。
 目覚めたわけではない。そのままキールの袖をつかみ、こてんとその胸で昼寝を再開した。

 俺の価値って枕並なのか。
 今、自分の思ったことに少なくない衝撃を受けつつも、同居人の寝顔を覗きこむ。
 さっきの苦しそうな表情はなく、なんだか嬉しそうに笑っている。そんな顔を見ているうちに、あれこれ深刻ぶって悩んでいた自分が馬鹿馬鹿しくなった。今から自分は変われない。しかしメイはその自分を受け入れてくれた。また自分もそのままのメイを受け入れたのだ。

 「・・・『もう飽きた』って言っても離婚しないからな」
 物騒なセリフとは裏腹なキールの表情は、初夏の日光に遮られて見たものは誰もいなかった。

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