・・・・・あれ??
ここは??
ふと目を覚ましてメイは何か違和感を覚えた。
白い壁紙の部屋。
見慣れた机、壁に貼ったポスター、カレンダー、ベッドの脇に置いてある時計。
部屋を見回して別段おかしいところのないことを確認し、もう少し惰眠を貪ろうと目を閉じた後、とんでもないことに気付いてメイはガバッと身を起こした。
「ええぇぇぇっ!?」
そこは自分の部屋だった。間違いなく。
しかし、昨日までを過ごした部屋じゃない。
元の世界の、自分の家の、自分の部屋、だった。
「うそっ!?」
ベッドから降りると部屋を飛び出す。バタバタと音をたてて階段を下りると台所へと駆け込んだ。
間違いなく自分の家だ。
キッチンに立つ母親の姿も間違いない。
ぼーぜんと立ちつくす娘に母親は声を掛けた。
「おはよう、メイ。日曜日だって言うのにめずらしく早いのね。」
「かーさん?・・・私、いつ帰ってきたの?」
突然言い出すメイに母親は呆気にとられたような顔で見詰めて・・・急に笑い出した。
「メイ、まだ寝ぼけてるの?顔洗ってらっしゃい。」
えっ、夢?
母親から無理矢理廊下に追い出されてメイもようやく頭が回り始めた。
じゃあ、じゃあ、クラインに行ったのも、向こうで会ったディアーナもシルフィスも・・・・・キールも、夢?
あんなに楽しかった日々も不安だった日々も?
キールに帰らないよって言ったのも、キールと一緒にいた日々も全部、全部夢?
メイは、クラインに召喚されてからの日々を思い出した。
キールと出会って、好きになって、キールと二人で過ごした日々も。
こんなに、こんなに、好きなのに?
この好きな気持ちも全部夢だったって言うの?
知らず知らずのうちに涙が伝ってポタリ、と床に落ちた。
「キール・・・・・・。」
メイは階段を駆け上がると自分の部屋に飛び込むと、ベッドに体を投げ出して泣き出した。
・・・声を殺して。
夢だったのなら、泣くことはない、現実の人間じゃ無いんだから。
そう思っても、好きな気持ちが消えない。
夢だったはずなのにこんなにもリアルに胸の痛みを感じている。
帰ってきたとか、夢で良かった、なんてそういう気持ちは全然無い。
どうして夢だったの?
夢じゃなかったら・・・ううん、夢じゃない方がよかった。
好きだっていう、気持ちだけが増していく。
「・・・・・・・メイ。」
キールの声が聞こえたような気がして、メイは顔を上げた。
「・・・・・・キール?」
キョロキョロと見回すメイの耳に、またメイを呼ぶ声が聞こえた。
「・・・・・メイ。」
上の方から聞こえた気がして、天井を見上げた時。
ふわっ
・・・・え??
すでに本日何度目かの驚きを感じたのも当然である。
メイの身体は宙に浮いていた。
そして下のベッドには・・・・自分がいた。
うそぉぉぉっ、幽体離脱!?
そう考えている間も身体はゆっくりとしかしどんどん浮き上がっていく。
天井にぶつかる!
目を瞑って衝撃に備えようとしたメイの耳に聞き慣れたキールの声がした。
「おい、メイっ!」
おそるおそる目を開けると翡翠色の瞳がジッと自分を見詰めていた。
「・・・あ、キール。」
「あ、じゃないだろうが。今何時だと思っている。」
憮然とした表情でメイから目を逸らしたのはいつものキールだった。
見回すと、昨日まで過ごした部屋。
キールと2人で住んでいる・・・・ラボの2階。2人の、寝室。
キール、だぁ・・・・・、よかった、夢、だったんだ。
今度は本当に夢じゃないんだと確認するために自分の頬を抓る。
「あいた・・・・・・・・・。」
痛かった。
「一体何をやっている?」
キールは突然自分の頬を抓って痛がるメイを不審そうな目で見詰める。
そんなキールにメイは抱きついた。
「キール、キール!」
「お、おいっ・・・。」
突然起きあがって抱きついたメイに慌てて、キールはメイを引き剥がそうとした・・・が、その直前にメイが抱きついたまま泣いているのに気付いてどうしたらいいのか分からずに困ったようにメイを軽く抱きしめた。
そうすることくらいしか考えつかなかった。
シオン様ならこういう時どうしたらいいか、すぐに分かるんだろうな・・・。
とちょっと考えてその考えを頭から追い払う。
いや、俺は別にシオン様のようにはなりたい訳じゃないぞ。
心の中で言い訳をすると、まだ自分の肩で泣きじゃくるメイの頭をそっと撫でた。
何故泣いているのかは分からなかったけれど。
「落ち着いたか?」
「ん。」
メイが泣きやんだのを見計らって、キールは声を掛けた。
「で、どうしたんだ?一体。」
「あのね、向こうの夢を見たの。朝起きたら・・・・・家にいて、クラインに呼び出されたのも、キールと一緒に暮らしてるのも、ぜーんぶ夢だった、って夢。」
メイは、キールの肩に顔を押し付けたまま、そう答えた。表情は見えない。
キールは何か言おうとして、でも、何も言えなかった。
「夢で良かった、って思って、キールがいて良かった、って思って。それでつい泣いちゃったの。」
「え?」
メイはパッと顔を上げると、ちょっと赤くなった目でキールを見詰めた。
「良かった。本当にキールがいてくれて。」
そして、本当にメイらしい心からの、太陽のような笑顔をして言った。
「夢の中ではキールが居ないと思ってすっごく悲しかったんだから!」
最強の笑顔で爆弾的な告白をするメイに、キールは真っ赤になると目を逸らした。
照れてるキールだぁ・・・・。
そんなキールを見ながら、やっぱり夢で良かったと確信して、メイはまたキールに抱きついた。
「キール、大好き。」
「おい、メイっ。」
焦りまくるキールの声を耳元で聞きながら、さながら猫のように擦り寄る。
そんなメイの髪を撫でながら、メイにも聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声でキールは呟いた。
「・・・・ありがとう。」
それほど好きでいてくれて。
こんな自分を必要としてくれて。
自分にとっても、それ以上に必要な存在で。
自分に必要な人が、自分を必要としてくれる。
そんな幸せにキールは身を浸していた。
「やだーっ!」
突然の叫び声でキールは我に返った。
メイが自分の服を引っ張っている。
「ど、どうした?」
「ごめーんっ、このシャツ涙でぐしょぐしょだぁ、すぐに洗濯するから脱いで!!」
すぐ着替えるから、と寝室を追い出されたキールは廊下で普段は見せないような暖かい微笑みを浮かべた。
こんな小さな出来事も幸せと感じることが出来る幸せに。
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