Water Sun

紅石智之様

ライン

「きゃー!やったわねー!!」
 メイの嬉しそうな悲鳴が辺りに木霊する。
「うわっ!なにするんだ!」
 メイが波からすくい取った水を俺に掛けてくる。
 まるで子供だ。
 でも、俺はそれが何故か楽しかった。
 証拠に笑みが止まらなかった。


 事は数時間前。
 メイが暑さのあまりに、湖へ行こうと言い出したのが発端だった。
「ねぇ、キール」
「ん?」
 粗方仕事も終わり、飲み物片手に明日の仕事の話をしていた時に、メイが突然言い出した。
「今日はもう仕事終わりだし、湖へ行かない?」
「湖…?」
 訝しげに俺が問い返すと、メイは元気に返事をする。
「ん!」
「…俺はパス」
「なんでぇ〜?」
 こんなクソ暑い中、外へ出ること自体馬鹿馬鹿しい。
「……ケチ」
「なんとでも言え」
 口を尖らせるメイに俺はそう告げると、手元にあった本を開いた。
 が、上目遣いでメイを見ると、頬をぷぅと膨らませてメイは俺に言い放った。
「…じゃ、いいもん。シルフィス誘って行くもん!」
「!なっ!」
 席を立ち、部屋へと行こうとするメイの手首を俺は思わず掴んだ。
 シルフィスだって!?あいつはつい最近、性が男に定着したばかりじゃないか。
 それに…メイと異常に仲がいい。…危険すぎる。
「キール?」
「……分かった。一緒に行く」
「ほんと?」
 さっきまでのふくれっ面がもう笑っていやがる。
 でも、そんなメイの笑顔、俺は好きなんだけどな。
「ああ。早く準備して来いよ」
「うん!」
 メイは大きく頷くと俺の手から離れ、部屋へと消えて行った。
「……ったく」
 俺は席についたまま頬杖をつくと、口元を緩ませた。


「ひゃあー!綺麗〜!」
 日差しが眩しい中、湖に到着するとメイは案の定大はしゃぎだ。
「キール、水がキラキラ輝いて綺麗だよ!」
「ああ」
「あれ、なんで木陰にいるの?」
「……」
 この暑い日差しの中に立っていられるお前が凄いと思うぞ、俺は。
「ほら、キール!」
 メイは俺の側までやってくると、腕を強く引っ張って波際に連れてきた。
 じりじりと太陽からの熱が体中に染みわたる。……暑い。
「キール!」
 不意にメイに呼ばれ、振り返ると視界が水浸しになった。
「きゃははは!」
 俺を指さして笑ってやがる。それも心底楽しそうに。
「お前なぁ〜!」
 濡れた前髪を掻き上げて、俺はメイを軽く睨み付けた。
「だって、暑かったでしょ?ほら、気持ちいいよ!」
 そう言ってメイは靴を脱いで裸足になると、波の中へと入っていく。
「それぇっ!」
 メイは手ですくった水をまた俺に掛けてくる。
「うわっ。メイ!」
「キールもおいでよ〜!」
 濡れた手で手招きされ、俺も仕方なく靴を脱いで水へと入る。
「気持ちいいでしょ?」
「ああ…」
 水は結構冷たく、暑さでむくれた足にはとても心地よかった。
「じゃ、キールも水の中に入ったことだし!」
「?」
 俺が一瞬首を傾げると同時にまた水が全身にかけられる。
 メイが手で水を救っては掛けるという動作を何回も繰り返すからだ。
「〜〜〜っ!」
 もう、我慢できるか!
「こいつ〜!!」
 眼鏡を取ってポケットに直すと、俺もメイと同じようにメイへ水をかけ始めた。
「きゃっ!冷たい!」
「お返しだ!」
「こっちこそ!」
 俺達の水を掛け合う音と、笑い声だけが辺りに響きわたった。


 しばらくして、俺達は水の掛け合いを止めると、お互いを見合った。
「ひゃー。びちょびちょだわ…」
「……お前が手加減無く水を掛けてくるからだろうが」
 服が肌にまとわりついて、気持ち悪い。
 が、なんだか気分はとてもいい。
「だって、楽しかったんだもん」
 そう言って、メイは笑みを浮かべた。
「……」


 メイの満面の笑顔はまるで太陽みたいな…。
 ずっと…俺の太陽でいてくれよ?メイ。


「ねぇ、キール?どうしたの…?きゃっ!」
「なんでもない!」
 俺を覗き込んでくるメイに、俺はガラにもなく思った自分の想いを勘づかれまいと、水を掛けた。
「やったわね〜!!えいっ!」
「〜〜っ!」
 嬉しそうに水を返してくるメイ。
 メイとなら…こんなクソ暑い中でも出るのも悪くはないな。
 今度は…俺から誘ってみるか。

ライン

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