「うわあああああああっ!!」
一斉に小鳥が飛び立つ。
休日の晴れた気持ちのいい朝。
騎士団の見習い用宿舎で大きな叫び声が起こった。
騎士団の朝は早い。
見習いとて当然例外では無い。
だから休日の朝は皆が惰眠を貪る貴重な時間である。
そんな中で起きた声に文句を言いながらまた布団を被り直す者、まったく起きない者、さまざまだが・・・半分の者は起き出して、声の主の部屋へと向かった。
文句を言うためではない。
声の主は、この見習い宿舎で、一番そんな声を出さない者だったからである。
「おい、シルフィス!どうしたんだ?」
ガゼルはシルフィスの部屋をドンドンと叩きながら聞いた。
真っ先に扉を開けないのは、その部屋の主が女性になる可能性を秘めているからであった。
「な、何でもないんです。すみません、大声を出して。」
いつもなら、ガゼルの大声をたしなめながらもにこやかに出てくるシルフィスが、今日は姿も見せず、震える声で答えた。
「大丈夫か!?」
「えぇ、何でもないんです。すみません、今ちょっと、扉を開けられなくて。」
「ほんっとーに、何でもないんだな?」
「えぇ、ちょっと驚いただけですので。」
不審に思いながらもガゼルや、その他の見習い達はそれぞれの部屋へと戻っていった。
そして、部屋の中・・・・シルフィスは真っ青だった。
「ど、どうして・・・私が何をしたと言うんですか・・・・・。」
泣きそうである。
白い裸身に金の髪が流れる・・・・・・その身体は男性のものであった。
シルフィスは休日でも、いつものように早朝の鐘と共に起き出した。
顔を洗い、着替えを済ませようとして、ふと、気付いてしまったのだ。
・・・・・違和感。
どことなく筋肉質な腕、身体、足・・・・そして僅かながら残っていた子供の身体がすっきりと消え失せていることに。
そう、シルフィスは男性へと分化したのだった。
シルフィスはベッドに腰を掛けたまま、頭を抱えて考えていた。
何が、いけなかったのか、を。
彼、そう、今や明らかに「彼」となった人物は女性へ分化したかったのだ。
理由は、先日、恐ろしい目に遭ったからであった。
彼は先日、友人であるメイとの関係を彼女の恋人であるキール疑われ、女性に分化しろと脅されたのである。
もちろん彼も騎士の卵、ただの脅しに屈することはない。
だが、キールの目はただの脅しでは無いとわかるほど本気だったのである。
その時から彼は女性への分化を望んでいた。
女性に分化したいと思って女性の友人であるメイやディアーナを想像したのがいけなかったのか。
理由は分からない。
だが、男性へと分化してしまったことはもう揺るぎない事実なのだ。
彼は素早くいつもの服を身につけると、外へ出た。
休日の神殿は拝礼者が多く集まる。この日も神殿の中は多くの人が集まっていた。
皆一様に祈りを捧げ、女神を讃える歌を歌う。
そして、昼の鐘が鳴り一斉に人が出ていく中、一心不乱にシルフィスは祈っていた。
彼が男性へと分化したこと、それは女神の計らいである。
何故、私が。
そういう思いが無いわけでは無かったけれど。
女神の御意志・・・・そう思い、報告と感謝の祈りを。
「あれ?シルフィス?」
聞き慣れた声に顔を上げると栗色の髪の少女が人の波の中、手を振っていた。
「メイ」
微笑んだとき、シルフィスは凍り付いた。
この視線、これは!
メイの後ろで赤い色が揺れる。
・・・キールがこちらを睨み付けていた。
何も知らないメイはにこにこと走り寄ってきた。
「珍しいね、シルフィスが神殿に礼拝なんて。」
「え、ええ・・・今日は早く起きたものですから。」
キールに誤解されないよう、細心の注意を払いながら答える。
「おい。」
その時、何を思ったのかキールが話に割って入ってきた。
「は、はい?」
「お前、男に分化したのか?」
単刀直入、である。シルフィスは思わず咽せてしまった。
「ゲホッ、ゲホゲホ」
「大丈夫?シルフィス。」
「あ、は、はい。・・・でもどうして分かったんですか?」
まだ、分化したてでちょっとやそっとでは分からないだろうと思っていただけに驚きが隠せなかった。どうせ隠してもバレるわけだし、後でバレてややこしいことになるよりは、とシルフィスは覚悟を決めた。
「何となくだ。そうか、分化したか。」
(あ、危なすぎます、キール)
キールの目がさらに細く、妖しく、冷たく輝く。
「まだ、隊長にも報告してませんので・・・失礼します。」
シルフィスは逃げるように宿舎へと向かった。
背中に細く針のように刺さる視線を感じながら。
生きた心地がしないまま3日が過ぎた頃、シルフィスはレオニスに呼ばれた。
ダリスの魔法兵器に関する情報を得るための作戦に加わるよう言われたのだ。
もちろん、シルフィスは即答した。
騎士として、男性になった今、国のために戦うことに何の迷いもない。
そして・・・キールとメイから離れることが出来るから、という理由もあった。
だがそんな願いも虚しく、作戦実行の詳しい打ち合わせをするとき、キールとメイも参加することを知ったのだった。
そこで、キールは言い出した。
「砦に残って情報を整理する支援部隊と、実行部隊に関してですが・・・。 彼女の配置だけは、自分で決めさせてやりたいと思います。・・・この中で一番死にやすいのは、こいつですから。」
すでに、レオニスは支援部隊、シルフィスは実行部隊、と騎士団側の人間は部隊を決めていた。
(ここでメイが私と一緒の方を選んでしまったらキールに殺されてしまいます)
そう思ったシルフィスは思わず、メイに告げていた。
「隊長は支援部隊に。私は実行部隊に配置されています。」
シルフィスの意図を知ってか知らずか、冷たい目でシルフィスを一瞥するとキールはメイを促した。
「・・・余計なことを言った。お前が好きな方を選べ。」
長い、間があった。いや、実際はほんの数秒だったのかもしれない。
「んー、じゃあ、支援の方!」
軽やかなメイの声はシルフィスにとって女神の声にも聞こえた。
結局レオニスとメイ、キールとシルフィスに別れ実行することになった。
日程の打ち合わせを済ませ、帰ろうという時、すれ違いざまにキールはシルフィスに囁いた。
「作戦中に、何故男に分化したのか聞く。」
何故、と言われても聞きたいのはこちらの方である。
作戦実行中に死んでも、疑いは持たれない。
シルフィスの背中を冷たい物が流れた。
果たして、作戦は無事成功するのだろうか?
シルフィスは生還出来るのだろうか?
答えは女神のみぞ知る。
言い訳
ぜんっぜん終わってないですね、これ。単にアブナイオオカミVS怯えるウサギって感じが・・・。(墓穴)
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