冷たい視線

りあ

ライン


「やっほー、シルフィス!」
大通りを歩いていたシルフィスは名前を呼ばれて振り向いた。
金の糸をした髪がふわりと揺れる。

「こんにちは。メイ。」
パタパタと走って近寄ってくる小柄な少女を見ると、にっこりと微笑む。
もともと端正な顔立ちなため近寄りがたい印象を与えるのだが、微笑むと人懐っこい表情になる。


「何してるの?」
「今日はお休みなので、少し買い物をしようかと思いまして。」
「ふーん・・・・ね、今、暇?」
「え?まあ、急いでいるわけではないですけど・・・。」

首を傾げながら答えると、メイはシルフィスの腕を引いて言った。
「ね、この少し先にね、おいしいケーキがある店ができたんだ。行こう!」
「ええ、いいですけど・・・。」
そう言ったとき、ゾクリとする感覚が背中を走り、シルフィスは振り向いた。

「・・・・どうかした?」
メイが不審そうに聞く。
「あ、いえ・・・。」
そう答えると、少女に引っ張られるようにして喫茶店へ向かった。

(確かに誰か、こちらを見つめていたのだけれど・・・。)
シルフィスは見習いとはいえ、騎士団に所属しているので、人の気配にはとても敏感である。
一緒にいるメイを不安にさせないため、何も言いはしなかったが、確かに一瞬殺気のようなものを感じたのだ。
だが、人の多い大通りではその気配の主を捜し出すことは出来なかった。


少し歩いた後、メイは最近出来たらしいお店へ入っていく。
窓際の席に案内されると二人は話をはじめた。
「こんな所、1人で来ても楽しくないでしょ?でもキールって甘い物全然ダメだし。一緒に行ってくれる人探してたんだ。」
おいしそうにケーキを頬ばりながらメイが言った。

確かにおいしいケーキだった。
二人は久しぶりに会ったこともあり、色々な話をしながらケーキを食べた。

「あ、メイ。クリームが。」
メイの頬にクリームが着いていたので、指で掬った。
「あ、ありがと。」
「いいえ。・・・・・!?」

その時、また殺気のようなものを感じ、シルフィスは殺気が発せられる方に目をやった。
思わず、手にしていたケーキを取り落としそうになる。
その殺気を発していたのは、メイの後方の窓の外からジッとこっちを見つめている人物であった。

目が据わっており、冷たい空気を発しているような感じで、普段とは全然違う雰囲気だが、明らかにメイの恋人、キールである。
(・・・・・・キール!?)

「どうかした?」
「いえ、なんでもないです。」
慌てて答える。
キールのことをメイに言ってはいけない、そんな気がしたからだ。

しかも、殺気はドンドン強くなっている気がする。
(これってやっぱり・・・・。)

「ねぇ、メイ。今日はキールに言って出てきたんですか?」
恐る恐る、メイに切り出す。
「ううん。だってあいつってばね、『遊びに行くよりすることがあるだろうが。』って最近何処にも行かせてくれないんだよー!だから黙って出て来ちゃった。」

(やっぱり・・・・・・。)
背中に冷や汗が流れるのを感じながら、ゆっくりとメイに言う。
「それは、メイが心配だからですよ。」
「それは分かってるんだけどね〜。」
「ちゃんと今度からは言ってから出てきましょうね。」
「うーん。そうだね。心配してるかもしれないもんね。」
にこっ、と屈託のない笑顔でそう答えると、メイは不審そうに聞いた。

「でも、どうして突然そんなこと言うの?」
「いえ、もう結構時間が経ちましたから。」
(まだ、死にたくないです。)
そんなことを心の中で思いながらシルフィスは言った。
実際、メイと会ってから結構時間が経っている。あの、大通りでの殺気もキールのものだとしたら・・・・いや、間違いないのだが・・・・かなりの時間キールはこちらを見ているのである。
これ以上一緒にいると、この殺気から言ってかなり恐ろしい想像になる。


「あ、ホントだ。いっけない!帰らなくちゃ。」
メイが外を見てそう言う。外はすでに夕焼けが出始めていた。
店を出るとシルフィスはすまなそうな顔で言った。
「すみません。ちょっと買いたい物があるので送っていけないんです。」
いつも、町で会うと、研究院まで送っていくのだが、キールがいるなら大丈夫だろう、と言う気持ちと何よりあの殺気の混じった視線に耐えきれなかったのだ。

「いいよ、別に。じゃ、またね♪」
そう言うと、メイは軽やかな足取りで研究院へ帰っていく。


(助かった・・・・・・・・。もう、帰ろう。)
ホッとして、気を抜いた直後、シルフィスは凍り付いた。
「ちょっと話があるんだが・・・・・。」
目の前には目の据わった、殺気を発する張本人、キールが立っていた・・・・・。


「さて、と。」
キールが振り向く。そこは近くの森の中だった。夕焼けの赤い光も遮られ、薄暗い。
周りにはもちろん誰もいない。

「な、何でしょう?」
「単刀直入に聞く。お前、メイのことをどう思ってるんだ?」

(やっぱり・・・・・・・。)
メイとお茶をしていたときに気付いたのだが、あの殺気はキールの嫉妬によるものだったのだ。自分はまだ分化していないから男になる可能性もある。キールにとっては十分嫉妬の対象だろう。

「ただの、友達です。ただの。」
キールに誤解されないように『ただの』を強調する。
実際、シルフィスはメイを楽しい友人、だと思っていた。メイもそう思っているだろう。
確かにメイのことは好きだが、恋愛対象というわけではない。

「本当だな・・・・?」
にやり、とキールが笑う。
(こ、怖い・・・・・・・・)
目が据わっているので、ものすごく恐ろしい。
冷や汗が出るのを感じながらシルフィスは大きく肯く。

「そうか・・・・。ならいい。」
そう言うとキールは一息ついた。
「お前・・・・必ず、女に分化しろよ。」
それだけ言うとシルフィスを置いてスタスタと去っていく。
何も言わなかったが、シルフィスには「でないと・・・・」というキールのその先の言葉がが聞こえるような気がした。

分化を終えるまで、シルフィスが身の危険を感じ続けていたのは言うまでもない・・・。


ライン

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