彼女を愛している。
彼女のいない自分など、想像できないほどに。
「メイ・・・側にいてくれないか?」
「いるわ。ずっと。」
「もう、元の世界へは帰さない。」
「帰らない。ずっとあんたの側にいるから。」
「あんたが好きよ、キール。」
彼女は自分を、自分の気持ちを、受け入れてくれた。
・・・でも、彼女は自分のどこがいいのだろう?
自分ですら自分のことが好きになれないのに。
なのに、どうして側にいてくれるのだろう。
本当に自分が好きで側にいるのだろうか?
この、狂おしいまでの想い。
こんな風に想ってくれているのだろうか・・・?
考えれば、考えるほど、恐ろしい答えになりそうで。
だけど、答えを知らずにはいられない・・・・・・・・・・。
「キールぅ、ちょっといい?」
ひょこっ、と扉を開けて顔を出すと、メイが言った。
「なんだ?」
「あのね、この課題なんだけど・・・・・」
言いながら課題のノートを広げてとことこと歩いてくる。
キールに疑問点を教えて貰い、なるほど、と呟く。
「あぁ、だからこうなるのね!?」
「そうだ。」
「そっかぁ・・・。ありがと。」
パタン、と課題のノートを閉じると、メイはキールを見つめた。
「・・・・メイ?」
「うーん・・・・」
キールは自分の顔を見つめてうなるメイに少なからず動揺していた。
すぐ側に、目の前に、メイの顔がある。
「おい、メイッ!」
「え?あ、何?」
「人の顔見て何をうなってるんだ?」
「あ、ううん。やっぱ、綺麗だなー、って思って。」
「なんだよ、それ。」
「なんでもなーい。」
ころころと変わる表情。軽やかな動き。ポンポンと弾むような声。誰もが愛する少女。
なぜ、俺を選んだのだろう?
俺より優しい人もいる。
俺より優れた人もいる。
俺より綺麗な人もいる。
俺より楽しい人もいる。
俺である必要はない。
・・・・・・・なのに。
「なぁ・・・・メイ。」
「んー?」
「なんで、俺の側に居るんだ?」
「はぁ?」
不審そうな目で見つめた後、メイは笑って答えた。
「好きだからよ?キールが『側にいてくれ』って言ったんじゃない。それとも、もう嫌になった?」
「なっ・・・そんな訳ないだろう!」
「じゃあ、いいじゃない。」
そう言ってにっこりと笑う。だが、それでは、答えにならない。
「なあ・・・どうして、俺なんだ?」
「キール・・・?」
またも問いかけるキールにメイは首を傾げる。
「俺である必要は何だ?」
「キール、どうかしたの?」
「俺でなくてもお前は・・・・・」
いいんじゃないのか?そう、言いかけてキールは黙った。
口に出せば現実になりそうで。
答えが怖くて、キールは目をそらした。
そんなキールの顔を両手で挟むとメイは自分の方を向かせた。
そして、くすっ、と笑うと、それでも目をそらしている恋人に口づける。
唇に柔らかい物を感じ、キールは呆然とした。
すぐ目の前では茶色の瞳が自分を見つめている。
「メ、イ・・・・・・」
自分の声が自分の声ではないように聞こえる。
そんなキールを見上げながらメイはキッパリと言った。
「あのね、キール。自分の何処がいいか、なんて聞いたら失礼だよ。私はキールが好きなんだから。」
「どうしてだ?」
そう、聞いた後、キールは一呼吸ついて続ける。
「俺ですら、俺が好きになれないのに。」
「キールは、自分が分かってないと思うけど。」
ため息をつきながらメイがボソッと呟く。
「・・・メイ?」
メイは知っていた。
キールの人を寄せ付けない雰囲気と、口調のせいで、近寄る人は少ないものの、女性にかなり人気があると言うことを。
時々、王宮の女官や、研究院在籍の女性たちが噂していることを。
本当は、不安になるのは自分の方なのだ。
もしキールが他の女性に目を向けたら、そんなことを考えたくは無いけれど。
だから、キールには教えてあげない。
自分からライバル増やしたくはないもんね、そう心の中で呟く。
「あのね。キールが嫌いな部分も含めて私はキールが好きなんだよ?」
そう言ってにっこりと笑う。
「だから、そんなこと聞いたり、『自分で自分が好きになれない』なんて言わないで。」
キールの中で何かが溶けたような気がした。
何処がいいのか、は、分からないけれど。
それでもいいと思った。
メイが、自分を本当に認めてその上で愛してくれているのだと分かったから。
そんな相手に出会えたこと。
それは、女神の奇跡。
多分、もう現れないであろうそんな奇跡の相手を、抱きしめる。
「ありがとう・・・・。」
「キール?」
キールの腕の中でメイは戸惑いながらもその感触を楽しんでいた。
・・・こんな風に態度に表してくれるなんて滅多にないから。
それが、少し不満だったのだけれど。
そんな不満も消えていく。
お互いの気持ちがまた少し近付く。
それも小さな奇跡だけれど、二人はまだ、気付いていなかった。
そんな奇跡が起きたことに。
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