天気も気分も良いこんな日は

りよん 様

ライン


うららかな春の日差し。抜けるような青空の下、木陰にて読書する。梢を渡る風は、涼しくて。緑の薫りを伝えてくる。
とても優雅な時間。・・・のはずだったのだが。

その重みは不意に訪れた。
(・・・動けない。)
左の肩に暖かな重みを感じながら、青年は固まっている。
その重みからすうすうという寝息のような音が発せられる。
(・・・完全に寝入ってるな・・・)
重みの正体は先ほどまで青年の隣で読書をしていた少女らしい。
頭を青年の左肩にもたれかけてお休み中のようだ。
(・・・ったく、なんでこんなことに・・・)

事の始まりは王宮の書庫だった。
「・・・今日は良い天気よねぇ。」
「・・・・・。」
「・・・外はとっても気持ち良さそうよねぇ。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「だあぁぁっ!ちょっとは反応ぐらい返しなさいよっ!」
「うるさい。静かにしろ。」
「くぅぅぅ、むっか〜!!」
・・・この2人これでも恋人同志である。

いつもどおりの反応に、いつもどおりの応酬をして、いつもどおりに書庫を追い出された後、キールはメイに声をかけた。
「・・・で?何が言いたかったんだ?」
少しうつむき、メイは答えた。
「うん・・・。あのね、今日良い天気じゃない。ちょっと良い所見つけたのよ。だから、暗〜い部屋で本読むよりも、外にしない?って言おうとしたんだけど・・・。」
そういって、ちらりと視線を上げ彼女は想像したとおりのキールの顔を見た。
ようするに、ジト目。
「お前なぁ、今がどんな時期かわかっていってるのか?」
怒ったような声にメイは首をすくめる。
「わかってるわよ!・・・もうすぐだもんね、上級魔導師試験。」
そう、もうすぐ上級魔導師試験だ。これに合格しないと、何も始まらない。研究院を出て彼といっしょにラボを開くために死んでも合格しなければならなかった。
実際、ここ数日間は珍しいことに一度も外に出ていない。王宮に来ることも久々の外出だった。
(・・・だから外の風にあたりながら勉強したかったんだけどな。ま、しょうがないか!)
未練に心の中で決着をつけ、返事を返そうとした直後キールの声が中断させた。
「わかってていってるならいい。・・・で、どこに行きたいんだ?」
思っても見なかった言葉に目を丸くして彼を見つめてしまう。
「今まで頑張ってたからな。・・・なに見てんだよ。」
「・・・い、意外だったから・・・。」
「意外で悪かったな。・・・早くしないと意外が普通になるぞ。」
少し頬を紅くするキールが可愛くて、わざと腕にしがみつき耳に囁く。
「キール大好き。」
少しどころじゃなくなった頬を見てメイは笑った。

シオンだってこんなとこ来ないわよ。
そう言った彼女の言葉が信じられないくらい、そこは良い場所だった。
王宮の外れ、人の往来もなく、かといって王族が住む所からも離れている。
芝生は緑の絨毯のようだし、優しい木陰を創り出す大きな樹。風通りも良く、日当たりも抜群、何よりそこは静かだった。
「ね、良い場所でしょ?」
「・・・よく見つけたな、こんな場所。」
「へへー。メイ様にかかれば、こんな場所の一つや二つちょろいちょろい!」
「誉めてない。あきれてるんだ。」
キールはいきりたつメイを無視して、樹の根元に座り、本を差し出した。口の端を上げてメイを見る。
「ここで読書したかったんだろ?早くはじめろよ。」
「・・・・なんかムカつく。」
そう言いつつも、おとなしく本を受け取りキールの左隣に腰掛ける。
しばらくページを繰る音を聞きながら、次第にキールも自分の本に集中していく。
左肩に重みを感じるまで。

相変わらず、規則正しい寝息が聞こえてくる。
(・・・ま、いいか。)
甘くなったな、と自分でも思う。自分と暮らすため、頑張る彼女を見ていると愛おしさがこみ上げてくる。つい、甘くなってしまうのもしかたないだろう。以前の自分からは考えられないことだけど。
隣にねむるのは愛しい少女。そんな少女の重みを感じているのも悪くない。
・・・ここが部屋だったら危なかったな。と埒の無いことを考えて慌ててそれを振り払う。
「ん・・・」
メイが上げた声に、後ろめたい事を考えていたキールはひどく狼狽した。
息を殺して待つが、その後の反応は起こらない。どっと疲れたキールは、メイを起こさぬよう溜息をつきながら読書に戻る。心に1つの決心をつけながら。
(明日の課題は2倍にしてやる!)

翌日、メイは2倍になった課題を、読書中に寝たからだと思いながらこなすことになる。


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