七夕

SIRFIS様

ライン

「キール、ちょっといい?」
夜も更けた頃、突然部屋を訪れたメイに、キールは眉をひそめた。
「何だ、まだ起きてたのか。何か用か?」
「うん。ね、ちょっとつきあってよ。星が見たいんだ。」
「はあ?」
キールは小さく息をついた。
「あのな、俺はおまえみたいに暇じゃないんだぞ。」
「いいじゃない、ちょっとだけでいいからさ。」
メイは屈託なく笑ってキールの腕を引っ張る。
可愛い恋人のおねだりを無下にできるはずもない。「しかたないな。」と小さく呟くと、キールはメイに引きずられるようにして部屋を出た。


二人は小高い丘の上に座って満天の星空を見上げていた。
「やっぱりね!あれって天の川だよね?」
「アマノガワ?なんだそれ。」
メイは空を見上げたままで言った。
「ほら、星がたくさん集まってて、川みたいに見えるでしょ。あれ、あたしの世界では『天の川』っていう意味で『アマノガワ』って呼んでたんだよ。切ない恋の伝説もあるの。」
「…ふーん…。」
何気なく隣りに座るメイを見て、キールはどきっとした。
さらさらと夜風に茶色の髪がゆれている。かすかに漂う甘い香り。
大きな琥珀色の瞳は、きらきらと輝いてじっと星空を見つめていた。
「昔ね、織姫っていう天の王様の娘がいたの。働き者でいつも見事な布を織っていたんだけど、ある日天の川の向こう岸に住む牛飼いの彦星に恋をしてしまった。王様は働き者の彦星を見込んで、織姫をお嫁さんに出したの。でも働き者だった二人は恋に溺れて、一向に仕事をしなくなってしまった。それで王様は怒って、再び二人を川の東と西に引き裂いてしまったんだって。」
「……それで?」
「織姫は王様のお許しを得るために、心を入れ替えて働き始めた。もちろん彦星もね。王様はそんな二人を見て、一生懸命これからも働くことを条件に、一年に一度だけ川を渡って会うことを許したの。その日が、7月7日。つまり今日ってわけ。」
メイは立ちあがって両手を空に向かって広げた。
「見えると思ったんだ。きっと、この世界でも……。」
「………。」
天の川の両脇に、二つのひときわ明るい星がキールにも見えた。
「一年に一度だけ……。でも会える保証があるだけいいよね。」
ふと、声が哀しげにくもる。
メイは二歩三歩と歩き、星空を見上げたまま呟くように言った。
「ねえ、キール。もし私がまたなんかの拍子で異世界に飛ばされちゃったら、どうする?」
「……。」
くるりと少女が振りかえる。
寂しげな琥珀色の瞳がじっとキールを見つめていた。
キールは静かに立ちあがる。
「…見つけてくれる?私がどこにいても……急にいなくなっちゃっても、見つけてくれる?」
声が震えている。瞳に涙があふれているのがわかった。
「…メイ……何かあったのか?」
問いかけると、メイはぽろぽろと涙をこぼして言った。
「夢を、見たの……。そばにいたはずのキールが急にいなくなっちゃって、辺りは真っ暗になってて……どんなにキールの名前を呼んでも、どこにもいなくて…私一人だけで…。」
キールがゆっくりとメイに歩み寄る。
顔を覆う白い手をそっと掴むと、メイは顔を背けた。
「でも、そういうことありうるんだよね……ここに来たのだって、突然だったんだもん…。いつどこでまた異世界に飛ばされるか、わかんないよ……。怖い……。」
「メイ…。」
キールは強く少女を抱きしめた。
震える細い肩を、壊れそうなほどに。
「心配するな。俺を誰だと思ってる?19歳の若さで緋色の肩掛けをもぎとった、クライン有数の魔道士なんだぞ。……探し出してやる。おまえがどこにいようと、どんなに長い時を経ようと……魂だけの存在となろうと、必ずおまえを見つけてやる。一人になんかさせない。……させてたまるか。」
細い腕がきゅっとしがみつく。
「ほんと……?どこにいても、絶対探し出してくれる?約束してくれる?」
「当たり前だろ。おまえしかいないんだ……俺にはもう、おまえしか…。何があったって、おまえだけは離さない。それこそ、アマノガワくらい蒸発させても会いに行くさ。」
キールの言葉に、メイは少し笑った。
「ふふ、すごいね。無敵じゃない、あたしたち。」
メイの笑いを含んだ言葉を、キールが唇で遮る。
深く想いを伝えるキスを、何度も何度も交わす。
「……おまえのためなら、どんな奇跡でも起こしてみせるさ。」

温かいキールの腕に抱かれながら、メイはふと星空を見上げた。
織姫と彦星が、瞬きながら少しずつ寄り添って行くように見えた。



    お待たせしました。黒ミサ企画ありがとう創作です〜。
    うう、七夕ネタ……もういよいよネタがつきたか私…。
    まきちゃんのご希望に添えられたでしょうか。
    よかったら、うちでもアップさせてくださいね。
    今回はありがとうございました。

    Written by SIRFIS
    For MAKI−HISAKATA
    1999/7/5

    管理人
    これはSIRFIS様よりまきちゃんが頂いた物をアップさせて頂いてます。
    七夕の夜に天の川とキルメイ、素敵ですよねぇ〜。(^^)

ライン

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