素直じゃなくて

なな 様

ライン

「ええ〜!あの小箱売れちゃったの〜!」
「そうなんだよ、ついさっき売れてしまったんだよ。悪いねお嬢ちゃん」
「そ・・・そんな〜〜・・・・」
がっくりと項垂れているのは、勿論芽衣である。そんな芽衣をすまなさそうに見つめているのは骨董品店の店主だ。
「本当にすまないね、あの小箱は前から欲しがっている女の子が居るから他の小箱にしてもらえないかって言ったんだけどね、その人もどうしてもあの小箱じゃないと駄目なんだって頭下げて言うもんだから・・・・・
根負けして売っちゃったんだよ・・・悪かったね〜、お嬢ちゃんが今日買いに来るって解っていれば、絶対に売らなかったんだけど・・・」
「・・・・・・・・・」
芽衣は大きな瞳を潤ませながら店主を見つめている。そんな芽衣に店主はどうしたもんだろうと考え込んでいたが、はっと気付いたように顔を上げると。
「そうだ!確か奥に似たような小箱が有ったはずだ、今見てくるからちょっと待っててくれるかい?」と、言って芽衣の返事も待たずに奥に駆け込んで行った。
暫くして店主が小さい小箱を抱えて戻ってきた。
「は〜は〜・・・・お・・お嬢ちゃん・・・これじゃ駄目かい?」
息切れして戻ってきた店主の手には木で出来た小さい小箱が有った。その小箱は綺麗に細工が施されており、小箱は日の光に照らされるとなんとも言えない風合いが出ていてとても可愛いかった。
しかし芽衣はそれを見て更にがっくりと項垂れる。
「お嬢ちゃん・・やっぱりこれじゃ駄目かい?」
ますます、すまなさそうに俯く店主を見て可哀想に思ってしまった芽衣は、慌てて首を振る。
「ううん!これもスッゴク可愛いよね、前の小箱も良かったけどこの小箱も可愛いからこれにするわ。おじさんありがとう!」
笑顔を向けた芽衣に店主もようやくほっとした顔をして芽衣をみる。
「そうかい?それじゃこれは安くしとくよ!お嬢ちゃんが気に入ってくれて良かったよ」
「うん!」
笑顔に戻った店主に芽衣は心の中でほっとしながら同時にため息をついていたのだが、そんな事は表情に出さずに小箱の代金を払うと芽衣はイソイソと店を後にした。
店から大分離れた場所まで来て、芽衣は自分の手にある綺麗に包装された小箱を見つめてため息をついた。
(本当はこれが欲しかった訳じゃないんだけど、しょうがないよね・・・・おじさんあんなに一所懸命探して来てくれたんだし・・・・それに頼みもしないのにこんなに綺麗に包装までしてくれちゃったんだもん。大事に使わなくちゃね。
でも、あの小箱・・・・欲しかったな〜。)
芽衣はがっかりしながら研究院に帰る道を歩き始めた。

芽衣がこの小箱に何故こんなに執着するか?
それには2ヶ月以上前に戻ってお話をしなければならない。

2ヶ月以上前に芽衣はキールにせがまれて元の世界から持ってきたプラスチックでできた可愛い小箱を研究用に貸してくれと頼まれたのである。
最初はしぶっていた芽衣だがキールに拝み倒されて仕方なしに貸してしまったのだが、芽衣の小箱はそれから1週間立っても2週間立っても返って来ない。
そこで心配になった芽衣は、小箱の行方をキールを問いつめた。
しかし彼から返って来た返事は・・・・
「壊れた」
の一言であった。
次の瞬間、芽衣の平手をキールが甘んじて受けたのは致し方ないことであろう。

それから更に数日後、キールに対しての怒りは消えないものの、壊れてしまった小箱は元には戻らないと諦めた芽衣は寂しい思いを抱えて過ごしていた。
ある日町を散策していた芽衣はたまたま覗いた骨董品店のショーウインドウに飾ってあった商品を見つけて驚いた。
そう、自分が持っていた小箱と同じようなプラスチックで出来た小箱が飾ってあったのだ。
値段は骨董品店に飾ってあるくらいだからそれなりに高かったが、お小遣いを貯めれば買えない額ではなかった。
そこで芽衣は直ぐさま店の中に入り店主を捕まえて必ず買いに来るからあの小箱を売らないで欲しいと交渉をしたのである。

芽衣はその日から節約しまくった。キールから貰うお小遣いは毎週決まった金額である。
貰ったお小遣いの殆ど全てを貯金しまくること2ヶ月、やっと小箱が買える金額が貯まった芽衣は意気揚々と店に足を運んだ。
――そして話しは冒頭に戻るのであった。

「ま〜お金貯まるのに2ヶ月も待って買いに行ったんだから、おじさんにしてみれば、もう来ないと思ったんだろうな〜」
芽衣はそう口に出して歩きながら空を見上げる。
(それにしても・・・・やっぱり欲しかったな〜)
芽衣は諦めきれないのか一人でブツブツ言ながら道を歩いていた。
暫く歩いていると、芽衣は自分にまとわりつく視線を感じた。神経を澄まして周りの気配を伺いながら歩くと、どうやら後ろから誰かに着けられているようだ。
(ん?やだ・・・・痴漢かしら?この芽衣様を狙うだなんて良い度胸してるじゃないの!
ふふん、憂さ晴らしに特大のファイヤーボールをお見舞いしてやるわ!)
芽衣はそう決意するとワザと人気のない道を選んで帰ることにした。

ところが、芽衣がワザと人気のない道を選んで歩いているというのに、着けてくる人物は一向に襲ってくる気配が無い。
こうなってくると流石に芽衣も頭を悩ませて考え始めた。
(なんなのよ?どうして襲ってこないのかしら・・・・只の痴漢じゃないのかしら・・・それなら!)

芽衣は俯いていた顔を上げたかと思うと突然走り出した。そして曲がり角を2・3ヶ所曲がると壁に背中を預けて立ち止まる。
(さぁ・・・いらっしゃい!その変態の顔を拝んでやろうじゃないの!)
芽衣は舌なめずりをして後ろから追ってくる気配を探る。
しかし、待てど暮らせど追跡者の足音は聞こえてこない。
(あれ?もしかして置いて来ちゃったのかしら?)
芽衣が心配になりそっと曲がり角から顔覗かせて通りを見ようとした瞬間、芽衣は突然後ろから肩を掴まれた。
「う・・・うきゃ〜!何すんのよ〜!!!!」
ばちーん!!
「うげっ!」
芽衣が振り向きざまに放った平手ビンタは気持ちいいくらいの音を響かせて後ろから肩を掴んだ人物にヒットした。
「お・・・・お前は、いきなり何するんだよ!!!!」
「へっ?キール????」
芽衣の強烈な一撃を食らった人物・・・・それは自分の保護者でもあるキールだったのである。
芽衣の手形がくっきりとついた自分の頬をキールは痛そうにして手で押さえている。
「いって〜・・・・」
「ご・・・ごめん、大丈夫?」
痛がるキールに芽衣は心配そうに彼を覗き込む
「大丈夫な訳ないだろ〜が・・っいて!」
「あ・・・あんまり喋らない方が良いよ・・・キール」
「誰のせいだよ、誰の!」
「あははははは」
渇いた笑いで誤魔化した芽衣は少し頭を傾げて考えるとキールに問いかけた。
「ね?もしかしてずっと後を着けていたのって・・・・もしかして・・・」
「もしかしなくても、俺だよ」
「やっぱり・・・」
「まったく、課題をサボって何処に行くのかと思って後を着いてくれば、人気の無い道ばかり歩きやがって、心配になって声をかけようと思えば突然走り出すから見失うし、やっと見つけたと思って肩を叩けばこの始末だ!」
「・・・・・あ・・・ははははは」
「あははは・・・じゃないだろ!ほら、帰るぞ!」
「は〜い」
「返事は短く!」
「はいはい!」
「1回でちゃんと返事できないのかお前は?」
「はい!」
「よし!」
芽衣の元気な返事を確認するとキールはスタスタと歩き出したので芽衣も慌ててキールの後を追った。


「ねぇ?本当に大丈夫?」
「大丈夫だから、お前はちゃんと今日の課題を終わらせろ!」
「は〜い」
キールは未だに赤く腫れたままの頬に冷たいタオルを当てて芽衣の後ろに座っている。
課題を放り出して出かけた芽衣にその続きをやらせているのだ。
流石の芽衣も今日ばかりは逃げられないと覚悟したのか先程から大人しく課題を進めているのだが、どうにもキールの赤く腫れた頬が気になって仕方がなかった。
時たまキールの方を振り返っては同じ質問を投げかけるのだが、今と同じような会話が繰り返されるだけで終わってしまっていた。

そして数時間後・・・・

「お・・・終わった〜!!」
「どれ?見せてみろ」
両手を上げて万歳をする芽衣に近づきキールは課題の中身をチェックしに取りかかる。
「よし・・・・今日はOKだ」
「やった〜♪」
「ちゃんとやれば出来るんだから、サボらずにちゃんとやれよ」
「わかってま〜す」
「あのな・・・・」
可愛い舌をペロっと出して言う芽衣にキールは疲れたように額に手をあてる
「今日は課題が終わったからもう良いでしょ?・・・・それより頬大丈夫?」
「ああ、もう大丈夫だから気にするな」
「本当に?ちょっと見せてみなよ」
「良いって!大丈夫だから」
「でも・・・」
「いいんだって・・・気にするな、俺も声をかけずにいきなり肩なんか掴んだから・・・驚かせて悪かったな」
素直に謝るキールに芽衣は驚きを隠せないのか瞳を見開いている
「やだ・・・キール?あんた熱でもあるの?」
「?」
「あんたが素直に謝るなんて・・・やっぱり私が殴ったせいかしら?」
「おまえ・・・・俺をなんだと思ってるんだよ」
「そう言われると困るんだけど・・・あはははは」
「・・・・・ま、今日はいい・・・・それよりも」
「ん?」
「これ、おまえにやるよ」
「え?」
キールはローブのポケットから小さい包みを取り出すと芽衣に差し出した。
「何これ?」
「課題を間違えずに終わらせたご褒美だ。ありがたく貰っとけよ」
「なんなのよ・・・それ」
「じゃ〜な!」
「あ、ちょっとキール?」
芽衣の呼び止める声を無視してキールはそのまま部屋を出ていってしまった。
その後ろ姿を見送った後、芽衣は貰った包みを机の上に置いて暫しの間それを見つめる
「これ・・・・なんだろ?」
訝しみながらも芽衣はその包みを開けて見ることにした。
「こ・・・・・これ!」
簡単に紙で包んであった中身は先程自分が欲しくて欲しくてたまらなかったあの、小箱だった。
「これ・・・・キールが買ったの?」
芽衣はその小箱を大事そうに持ち上げると、胸に抱え込む・・・そして先程の骨董品店の店主との会話を思い出して芽衣はクスクスと可笑しそうに笑った。

『その人もどうしてもあの小箱じゃないと駄目なんだって頭下げて言うもんだから・・・・』

(あのキールが人に頭を下げて買っただなんて・・・・どんな顔して買ったんだろ?)
芽衣は胸に抱え込んだ小箱を再び見つめるとキールの部屋の方向にある壁に向かって語りかけた。
「馬鹿キール・・・・ありがとう」


「・・・・どういたしまして」
芽衣の部屋を出ていったキールは実は芽衣の部屋の扉の前で佇んでいた。
「お前に寂しい思いばっかりさせて悪いな・・・・これで勘弁してくれ・・・・メイ」
キールはメイに気づかれないように小さな声で呟くと扉の前からそっと離れて自分の部屋へと戻って行った。


――今日の話しを想い出話にする時が来るのはきっとそう遠くない未来のお話し、二人が素直になるのもね――

ライン

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