世界の中心

あまみ 様

ライン

「あたし帰れるみたい」そう告げるメイに俺は心とは裏腹の言葉を答える。
「帰るための努力をしてきたのなら、そうした方がいい」と。

「じゃあね。バイバイ」メイは笑顔で消えていった。
その瞬間、恐ろしいまでの喪失感とともに世界はまるで太陽が消えたように、暗く色あせたものに変わった。メイがいない。ただそれだけで……。

「……っ!」勢いよく顔を上げると見慣れた自分の部屋が目に入った。
「夢か…」いつのまにか机でうたた寝していたらしい。机の上には書きかけの魔法陣がそのままになっている。
それほど長い間眠っていたつもりはないのだか、夢まで見てしまった。
「キール?まだ起きてる?」控えめなノックがしたかと思うと、メイが入ってきた。夜更かしになれている自分にとってはそれほど遅くはないが、目の前の少女はいつもならもう寝ている時間だ。
「ああ、なんだ。どうかしたのか?」寝起きだということを気づかれないように、さりげなく尋ねる。
「うん、ちょっと本を借りたくて」そういいながらメイは書棚を見回している。
その後姿を見ているとついさっき見たばかりの夢を思い出す。メイが元の世界へ帰ってしまうという夢を……。

「う〜ん、届かないなあ」
夢の名残りにとらわれていると、メイのつぶやきが聞こえてきた。顔を上げると上の段の本を取り出そうと、背伸びをして手を伸ばしているメイの姿を見つけた。
もともとこの部屋には天井近くまで書棚があるのだか、小柄な少女のために彼女が必要としそうな本はすべて下の方の段に入れ替えていた。だがこのクラインで自分とともに生きていくために魔道士の資格をとる勉強をしているメイは、レベルの高い本も必要とするようになっていた。
「なんだ、どの本だ?」そういいながら俺は本をとってやろうと、メイの後ろから手をのばした。
「え〜と、あ、それそれ」
「ありがと」メイにその本を差し出すと、うれしそうに笑って受け取った。
その笑顔に夢で見た笑顔が重なる。

あの夢は起こりうる一つの未来だった。あの暗い世界は一つ違えば現実のものになっていたかもしれなかった。そう思うとあの喪失感に身が震え、思わず呼んでしまった。
「メイ」
「ん、な〜に、キール」答えは返ってきた。いつものあの笑顔と一緒に。
彼女は今、俺のそばにいる。間違いなくこの世界に存在する。呼べば答えてくれるほど近くにいてくれる。深い安堵感が心に広がっていった。
本から顔を上げ自分を見上げるメイに愛しさがこみあげ、思わず口づけた。
触れた唇の温かさをもっと確かめたくて、角度を変えては貪るように口づける。

慣れない深い口づけに息が上がってしまったメイの唇からようやく離れ、それでもきつく抱きしめたまま心のままに告げる。
「帰るなよ。ずっと俺のそばにいてくれ」
メイは明るく笑って答えをくれた。
「帰らないよ。私がいる所は、ううん、いたい所はアンタのそばだけ。絶対にどこにも行かないからね」と。

春の風吹くあの奇跡の出会いの日から俺の世界はメイを中心に回り始めた。お前が俺の世界を動かし、照らしてくれる太陽なんだ。お前がいる限り俺の世界が色あせることはない。
永遠に……。


    後書き
    ありきたりな話ですみません。初創作ということで許してください。

    管理人
    許すも何も、素敵なお話ありがとうございます。あまみ様の新作、楽しみにしてますわ♪(鬼)

ライン

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