月明かりが優しく照らす部屋の中、身じろぎする影があった。
「ん」
小さな吐息を零し、少女はぼんやりとした様子で起き上がると瞳を瞬かせる。
「さむ」
ふるりと揺れる肩 夜の空気は冷たい。
「ヤだ」
震えた肩を押さえた手が、素肌に触れたことで自分が眠る前にしたことを思い出した彼女は慌てて再びベッドに潜り込む。
ほんのちょっとした時間だったのに、それだけで冷めてしまった身体は体温で暖められたシーツの中でやっと一息ついた。
「どうしたんだ?」
「・・・・・起きてたの?」
驚いた問いかけに答えず、その人は優しく少女を抱き寄せる。
「ねぇ?」
「お前が起きた時にな」
「ごめん」
「かまわない」
他に誰がいるわけでもないのに、二人の言葉は囁きに近しい。
《メイ=フジワラ》
《キール=セリアン》
それが二人の名前だった。
自分とは違うのだと分かる広くて堅い胸に額を寄せて、メイは呟く。
「いっぱい、あったね」
「これからもあるさ」
笑みの混ざったキールの返事に、クスクスとメイも笑った。
「今まで以上に?」
「多分」
唇に触れる栗色の髪を軽く食んで引っ張る。
「ちょっと」
「何せここにトラブルを引き寄せる特異体質がいるからな」
「ぷぅっ」
「ホントのことだろ」
拗ねた瞳で自分を見上げるメイの額に、キールはそっと唇を落とした。
「・・・・・」
照れたように、メイは再び青年の胸に顔を埋める。
女神の悪戯のように二人は出会った。
魔法実験の失敗によって召喚された異世界人と実験責任者として
喧嘩ばかりしていた四月
『どうしてこんなことになったのか?』
疑問符ばかりが全てだった。
少しだけ余裕の出来た五月
『こいつ、意外といい奴かも』
ほんの少しの触れ合いが続く運命の先駆けだった。
理不尽な痛みに憤りを覚えた六月
『何故こんなことを言わせる?言う?』
近づいていた分だけ痛んだ心が不思議だった。
「キールの手、好き」
「ぁん?」
「もっと」
「お前な」
ぷっくりと頬を膨らませてねだるメイに苦笑して、キールは疑問に止めた髪を撫でる手を再び動かす。
「きもちいい」
「くすぐったいっ」
「ふにゃ」
ゴロゴロと懐くと、笑いを含めた声に頭を押さえられた。
「ぶぅっ」
「ガキか、お前は」
笑い合って、二人は互いの瞳を見つめる。
好きと嫌いを知った七月
『一緒にいると楽しい』
ささいな出来事に心が躍った自分がいた。
笑い合うことの出来た八月
『こいつはとてもいい奴だ』
根拠があるようでない気持ちがあった。
ひたむきであることを知った九月
『ずっと一緒にはいられない』
浮かなくてはいけない心が沈んだ。
「キールの目って綺麗ねぇ。硝子越しって勿体ないよ」
「ずっと外しておけってことか?」
「うんっ」
「駄目だ」
「えーっ」
不満そうにとがらせた唇に軽く自分のそれを重ねるキール
「あうっ」
真っ赤になるメイ
「あった方が落ち着くんだ。硝子越しなら、傷つけられない」
「・・・・・も?」
「?」
「私も、キール、傷つけてる?」
「いいや」
脅え始めた十月
『何時までこうしていられる?』
不安が心に浮かんで消えた。
確実に迫る終焉を知った十一月
『この時は続かない』
未来に闇を見た。
願った十二月
『叶うならずっと一緒に』
あり得ないと知っていながら夢見た。
「きぃる」
「何だよ?」
「きぃる」
何処かたどたどしい言葉
「?」
「きぃる」
「ったく」
ふぅっとため息をついて、彼はグリグリと少女の髪を乱暴に撫でた。
「ぁにすんのよぉ」
「お前が用件言わないからだろ」
「用なんてないもん」
「はぁ?」
「名前を呼びたかっただけ」
「・・・・・」
「それだけ」
そこに貴方がいるから。抱き締めてくれるから。抱き締められるから。
祈り捧げた一月
『もう少しだけこのままで』
心からの女神への懇願だった。
結果の見えた二月
『これ以上はいられない』
先伸ばしの出来ない現実が辛かった。
最後の三月
『奇跡は起きますか?』
想いの手を差し伸べた。
側にいること
「何か、くすぐったいね」
その幸せ
「そうだな」
見つめ合える距離はもう変わらない。
女神の御前で誓った約束があるから。
シュン・カ・シュウ・トウ
「・・・・・明日、晴れる?」
翠の瞳に緑が見える。
「多分」
茶の瞳に大地が見える。
「・・・てる」
途切れる吐息が唇に触れた。
「あぁ、・・・・・」
見つめ続けた
はる・なつ・あき・ふゆ
手を取り合って
これからはずっと一緒
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