女の子は魔法を使う《はじまらない恋》

湖乃様

ライン


魔法が使えたら何をする?
シオンのそんな質問に、「綺麗になる魔法を使いますわ」と答えたのはクラインの第二王女。
王宮の中庭で土いじりをしていた筆頭宮廷魔導師は、柔らかな衣擦れの音に顔を上げた。しゃがみ込んでいるシオンの前を、王女が足早に通り過ぎていく。
ふわふわとした桃色の髪をなびかせて、王女は茶色の髪の親友に抱きついた。
「メイ!!お久しぶりですわね!……会いたかったですわ」
「元気してた?ディアーナ、二日ぶり〜」
「メイに会えなくて寂しかったですわ………」
「ごめんごめん、その分今日遊ぼっ、ね!」
よしよし、とメイがディアーナの頭を撫でると、嬉しそうに微笑みながら、王女は小猫の様にメイの胸に頭を擦り寄せた。くすくすとメイが笑う。
「くすぐったいよお」
「…………何だかすっげー世界が目の前で展開されてんな」
二人の少女に完全に無視されているシオンは、憮然とした表情で頭を掻いた。
くるん、と少女達がシオンを振り返る。
「シオン、ごきげんようですわ」
「やっほー、今日は花とデートなの?」
「そお、花とデートなの……どっちか俺と付き合ってくれると嬉しーんだけど?」
冗談めかしてシオンが言うと、少女達は顔を見合わせて微笑んだ。
「残念ですけれど、メイと先約がありますの」
「そ、あたし達これからデートなの。悪いわね〜」
全く悪びれない顔をした少女達に、シオンは肩を落とす。
「冷たいねえ……それに比べて君は優しくたおやかだ……なあ、フローラちゃん」
しゃがんだ姿勢のまま背中を丸め、指先で花をつつく筆頭宮廷魔導師に、二人の少女はため息をついた。
「女官達に見せてやりたいですわね……」
「変態………」
「あのなあ、嬢ちゃん達」
半眼で振り向いた魔導師に、からからとメイが笑う。
「わかってる!わかってるって。でも今日はほんとに……」
「うふふ、メイはキールに操をたてているんですのよ」
無邪気な口調でそう横から告げる王女に、メイは思わず転びそうになった。
「ディアーナ!あんた仮にもお姫さまなんだから……っああ、まあその、シオン、そういうわけだから」
じゃあね!と逃げる様に去っていくメイの後を追おうとして、ふと、ディアーナは足を止めた。
「シオン」
「ん」
「メイは綺麗になったと思いませんこと?」
「……姫さんもな」
ディアーナは柔らかく微笑んだ。それが本当に、本当に綺麗で………シオンは目を伏せる。
「シオン」
「…………ああ」
「シオンも探さなくては駄目ですわよ。ちゃんと、シオンを見ていてくれる人を」
シオンは顔を上げ、ここの所、急に大人びた王女を見つめた。
「………姫さ………」
「ディアーナ!」
メイの声がシオンの言葉を遮った。「何してんのー」と遠くで叫んでいる親友に、王女は手を振って答える。
「今行きますわー、メイ!………ではシオン、失礼いたしますわ」
そう言ってきびすを返すと、ディアーナは二度とシオンを振り返る事無く早足で去っていく。
「魔法が使えたら何をする?」
「綺麗になる魔法を使いますわ」
そんな会話を交わしたのはついこの間の事だったのに。
少女はあっという間に大人になっていく…………立ち止まったままのシオンを、鮮やかに追い越して。
服についた土を払いながら、シオンは腰を上げた。目を細めて、少女達の後ろ姿を見送る。
「そんな魔法なんか使わなくたって………いくらでも綺麗になるんだからなぁ、女ってのは」
誰の為に、なんて野暮な事は言わないが。
「恋の魔法、……か」
甘く、それでいてほろ苦い感慨を胸に抱いて、口元だけでシオンは笑った。
「シオンと何の話をしてたの?」
王宮から抜け出し、城下町へと続く道を歩きながらメイはディアーナに尋ねた。
「女の子が使う魔法の話ですわ」
恋は女を美しくしますのよね、と、悪戯っぽく笑う王女に、メイは視線を地面に落とし声を低めた。
「………あたし、ディアーナってシオンの事が好きなんだと思ってた」
うふふ、とディアーナは可愛らしく小首を傾げた。
「内緒ですわ」
「あ、ずるーい」
「言わぬが花、ですわ」
だいたい、と王女らしくない仕草でディアーナが指を振る。
「そんなお話、今付きあっている方に対して失礼ですわ」
メイは真面目な顔になって王女を見つめた。
「ディアーナ、いま、しあわせ?」
「ええ、しあわせですわ」
にこり、と一点の曇りもない笑顔でディアーナは答えた。
「そっか」
ならいい、と頷くと、メイは一転して明るい声を出した。
「さ、早く行こ!席がなくなっちゃうかもしれないよ」
「あのお店、最近人気出てきましたものね」
くすくすと笑いさざめきながら、少女達は、目当ての店を目指して歩いて行く。
二人とも、一度も後ろを振り返る事はなかった。


    あとがき
    ディアーナとシオンです。「はじまらない恋」と最初から対で考えていた話です。
    個人的には、こういう話を書くのは大変楽しいんですが…色々とアレなので謝っておきます、ごめんなさい。ギャグオチにしようか最後まで迷いました(笑)。

    管理人
    シオンが切ないですね。ギャグオチ・・・これがどうギャグオチになるのか想像もつかない・・・。(笑)
    ディアーナの相手が誰なのかちょっと(いや、すごく)気になります。


ライン

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