想いを込めて夏服を

りあ

ライン

爽やかな風が吹き、気持ちのいい晴れの日。
メイは軽やかに大通りを歩いていた。

ひょい、とお店を覗くとがっかりとしたような表情を浮かべてまた他の店を覗く。
「おい、いつまでそうしてるんだよ。」
不機嫌を絵に描いたような表情でキールが言った。
「だって、せっかく買ってくれるんだもん、気に入ったヤツが欲しいじゃない?」


メイがこの世界に来てから2度目の夏になった。
1度目の夏は暑かったけれど、元の世界の服を着て過ごした。
元の世界と自分を繋ぐ大事な服だったから。
他の人には暑いだのキールが服を買ってくれないだのとブツブツ言っていたけれど、本当は自分が着たかったから着ていたのだ。
・・・ただ、郷愁を知られたくなかっただけ。
唯一その想いを知っていたのはキールだった。
知っていたから、『服を買ってあげろ』と他の人から責められた筈なのに、何もメイに言わなかった。

ただ、2度目の夏・・・・。
もう、メイを元の世界に縛り付けるものは何もなかった。郷愁も。
「もう夏なんだから服を買ってやるよ。」
そう言い出したのはキールだった。
だから二人でメイの洋服を買いに来たのだが、もう3時間以上経つというのにまだ決まらないのだ。1時間くらい前からキールの顔が険しくなっている。


「だったら、お前、選んでこいよ。俺はもう帰るから。」
「何言ってんの。キールも一緒に選んでよ!」
「お前、店にも入らずに見て回ってるだけじゃないか。」
「だって、気に入りそうな洋服のあるお店が無いんだもん。」
「入ってみなければ分からんだろうが。」

二人が仲良く喧嘩をしているときにのほほんとした声が聞こえてきた。
「あれ〜、メイにキールじゃないですか〜。こんにちは〜。」
「あ、アイシュ。」
「奇遇ですね〜。何してらっしゃるんですか〜?」
「夏服をね、買いに来たんだけど、気に入るデザインのがなくって。」
キールが顔を少ししかめながら言う。
「お前の服が変わっているんだろ。」
「だって、夏なのに長いスカートなんてやだもん。」
「その服よりは涼しいだろうが。」
「暑いから、とかいう問題じゃないの!」

段々と二人の声が大きくなり、二人が切れかけようとしたとき、にこにことアイシュが微笑みながら言い出した。
「だったらメイ。ご自分で作ったらどうですか〜?」
「え?」
「気に入った布ならきっと見つかりますよ〜。」
「無理だよ〜。だって作ったこと無いもん。」
「兄貴、こいつに出来る訳無いだろう。」
キールの言葉にメイがむっとして振り向く。
「そんな言い方する事ないでしょう!?」
「じゃあ、作れるのか?」
「うっ・・・・・・・・・・・・・・。」

またもや険悪な雰囲気になりかけた二人をアイシュが止める。
「まあまあ、二人とも〜。作ってみなければ分からないじゃないですか〜。作り方なら教えますよ〜。」
・・・・・どこまでも家庭的なアイシュであった。
「ホント!?作れるかな?」
「大丈夫ですよ〜。」
「じゃあ、作る!布買いに行かなくちゃね。」
「デザインが分からないと布の量が分かりませんよ〜。」
今にも布を買いに走っていきそうなメイに、慌ててアイシュが言い出す。

「ふぅん・・・じゃあ、これからいい?」
「構いませんよ〜。」
「お、おい。本当に作る気か?」
「もちろん。もうあんなこと言わせないからねっ!!」
そう高らかに宣言する。

結局、デザインを決めたり、サイズを測ったり、布の長さを計算したりするため、アイシュの家で話し合うことにした。
その話を横で聞いていたキールはそっとため息をつきながらお金を差し出した。
「じゃあ、俺は帰るからな。布はこれで足りるだろ。」
「あ、ありがとキール。じゃあ、アイシュ行こう♪」

メイはアイシュを引きずるようにしてアイシュの家へ向かった。
そんなメイを見送りながらキールはため息をつく。

メイは可愛い。
良く笑う顔も、すらりと伸びた足も、軽やかな声も・・・・・・。
本当は、誰からも隠して自分だけの物にしておきたかった。
だから、あんな身体の露出した目立つ服ではなく、普通の服を着せておきたかった。
それに、あれは元の世界の服だから。
1年前、なぜメイが夏でもあの服を着ていたのか知っている。
想いを通わせ、帰らないと言ってくれた今でも、あの服を着ているメイが怖くて。
だから、服を買いに連れてきたのに。

他の男と話すときの笑顔、そんなもの見たくなくて。
仲良く話す姿を見たくなくて。
結局メイは自分の兄とはいえ自分以外の男と二人っきりになってしまった。

「馬鹿だよな・・・・俺も。」
自嘲気味に呟くとキールも研究院への道を歩きだした。


その日、メイが帰ってきたのはもう門限ぎりぎりだった。
「ただいま♪」
「遅かったな。」
「うん。ごめん。どんなの作るかとか布とか決めていたら・・・ね。」
「で、どんなのにしたんだ?」
「出来上がってからのお楽しみ、よ。」
そう言ってにこっ、と笑う。
「明日とあさってもアイシュの所に作りにいってくるね。アイシュがお休みらしいから。」
「お、おいっ。」
言うだけ言うと、メイはさっさと部屋に戻っていった。
「なんだよ、全く。」


翌日、朝早くからメイは出かけていった。
帰ってきたのはまた門限ぎりぎり・・・・・。
キールはメイが出かけている間中、イライラしていた。
なのに、帰ってきたメイに何も言えなかった。
「もう大分出来たんだよ!明日には出来上がるから待っててね!」
そう話すメイがとても楽しそうだったから。
・・・・・・・とても嬉しそうだったから。


二日目の夕方。
パタパタと聞き慣れた足音がして、メイが自分の部屋に入る音が聞こえる。
いつもなら、キールに必ず声をかけてから部屋に入るのに、である。

いつまで経っても顔を見せないメイを不審に思い、自分から会いに行こうと立ち上がった時、パタパタという足音と共にパタン!とメイが部屋の扉を開ける。
「ただいま〜!!」
入ってきたメイは、水色に小さな白い模様の入った涼しげなワンピースを着ていた。左肩を赤いブローチで止めてある以外は至ってシンプルなデザインだが、メイに似合っていてとても可愛い。

「どう?出来上がったんだ♪」
にこにこと笑いながら言うメイの声でキールはハッと我に返った。
「似合う・・・・・・な。」
横を向いたキールの少し赤くなった頬を見てメイは嬉しくなった。そういう言葉を出してくれることは・・・キールの性格上・・・滅多にないことだから。
するっ、とキールの腕に腕を絡めて、メイはキールの顔を覗き込んだ。
「ね。ちゃんと作れたでしょ?見直した?」
「まあな。」
ぶっきらぼうに答えるキールが照れていることに気付いたメイはにこっ、と笑うと持っていた袋をキールに手渡した。

「でね・・・・。これ、もらって?」
「何だよ、これ?」
「まあまあ。開けてみて?」
「・・・・・・・・・・?」

ゴソゴソとキールが袋を開けて中身を取り出す。
それは、水色の縁取りのある白い夏用のローブだった。
「おい、これは・・・・?」
「キールの服も一緒に作ったんだ・・・・。気に入らないかな?」
「あ、いや。そんなことは無い。」
実際、こういうシンプルなデザインは嫌いでは無かった。良く見ると水色の部分はメイの服と同じ布である。
「サイズはアイシュに聞いたから合ってるはずだけど・・・・・一応着てみて?」
「解った。」

隣の部屋で着替えるキールをメイはワクワクしながら待っていた。
実は、メイの服は昨日のうちに出来上がっていたのだ。
でも、どうしてもキールの服を作りたくて無理言ってアイシュと一緒に作ったのだった。

真っ白のローブでも良かったのだけれど。
きっと照れて一生してくれないであろうペアルックをしてみたかったのである。
だから自分の服と同じ布でわざわざ縁取りまでして。

「着たぞ。」
「・・・・・・・・。」
今度はメイが言葉を失う番だった。
白いローブはメイの狙い通り、とてもよく似合っていた。
「メイ?」
「あ、似合う似合う。良かった。サイズも合ってるみたいだね。」
「あぁ。・・・・・・・・・・・・・ありがとう。」

キールのお礼の言葉にメイはキールに抱きついた。
「良かった!」
「お、おい。」
「あのね、キール・・・・・・これでキールはこのメイさんのものだからね?」
ちょっと背伸びをしてキールの耳元で囁くとそのまま頬に軽くキスをする。
「そ、それじゃ、ねっ。」
パタパタと部屋を出ていくメイの頬が赤いことに呆然としながら見つめていたキールも気付いた。

「それはこっちの台詞だろ・・・。」
ボソッと呟くキールは、でも、今までの心配が少し軽くなった気がした。
メイの言葉がこの水色の縁取りにあることも解った。ならば、逆もしかり・・・だから。


ライン

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