はじまらない恋/おまけ編

湖乃様

ライン


王宮の中庭で土いじりをしていた筆頭宮廷魔導師は、柔らかな衣擦れの音に顔を上げた。しゃがみ込んでいるシオンの前を、王女が足早に通り過ぎていく。
ふわふわとした桃色の髪をなびかせて、王女は茶色の髪の親友に抱きついた。
「メイ!!お久しぶりですわね!……会いたかったですわ」
「元気してた?ディアーナ、二日ぶり〜」
「メイに会えなくて寂しかったですわ………」
「ごめんごめん、その分今日遊ぼっ、ね!」
よしよし、とメイがディアーナの頭を撫でると、嬉しそうに微笑みながら、王女は小猫の様にメイの胸に頭を擦り寄せた。くすくすとメイが笑う。
「くすぐったいよお」
「…………何だかすっげー世界が目の前で展開されてんな」
二人の少女に完全に無視されているシオンは、憮然とした表情で頭を掻いた。
(キールがいたら反応が面白かろーなー……あ、いた)
視線を巡らしたシオンは、メイの後方に後輩の姿を発見する。先日メイへの想いを自覚した青年は、何かにつけて彼女と行動を共にしている。一番の心配は他の男が手を出さないか、という事らしいが、彼がコバンザメの様に張り付いている状況でちょっかいを出せるのはシオンくらいなものだろう。そのシオンも、キールから「手を出したら殺す」と釘をさされている。
ハッキリ言って、最近のキールはほとんどストーカー状態だ。救いは、両思いであるという事くらいか。
(ほんっとに、恋は盲目だよな〜)
しかし、シオンの予想に反してキールは平静だった。おや、つまらない……などと思いつつ、シオンは立ち上がり、キールに近寄って声をかけた。
「よ、キール」
「……………………」
返事がない。
「キール!」
「……………………………………」
「キールッ!!」
「…………………………………………スキンシップ過剰」
一見ごく普通の表情をしたキールの口から、地を這う様な声が出てきて、シオンは思わず一歩後退した。
くるん、とキールがシオンの方を振り向く。
「そう思いませんか、シオン様」
「………あ、ああ。まあな(目がすわってるよオイ)」
逃げたい……と思ったが、キールの手がしっかりとシオンの外衣を握っている。
キールは抱きあっている少女達の方へ視線を泳がせた。
(メイのやつ、小さい小さいと思ってたが、この頃少し胸が大きくなったみたいだよな……)
なんとなくヤバイ目付きのキールに、シオンは眉をひそめた。
「おい、キール?」
(腰まわりも前より細くなったような……)
「……………おーい、聞こえてっか?」
(あんな抱き心地が良さそうなメイが毎日毎日目の前にいても俺は何もできないのに……姫……憎い)
「…………………………あー、その、キール」
はああ〜、と大きなため息を吐くと、キールはシオンの外衣から手を放した。そして、そのままふらふらとどこかへ去っていく。あえてその後を追う気もなく、シオンは肩を竦めて少女達に視線をやった。
「嬢ちゃんよ〜……なんとかしてくれないかな、アレ」
ほとんどキレかけだぜ?と呆れ顔のシオンに、メイはきょとんとして答える。
「なんとかって?」
「だからあ、焦らさないでやらせてやるとかさ〜」
ぱこん!
ディアーナが精一杯背伸びをしてシオンの頭をはたいた。
「下品ですわ!シオン」
「俺だって他人の色事に口を挟みたくはねーけど、キールがうっとーしいんだよ」
一緒に仕事する身にもなってくれ、と叩かれた頭を撫でながら言うシオンに、メイは首を傾げた。
「だってあたし、キールに好きだって言われてないし」
…………………………………………………………………………………………………………………………。
一瞬、沈黙が辺りを支配した。
「…………………………キ、キールのやつまだ言ってなかったのか!?」
驚愕から立ち直り、シオンはメイに詰め寄った。
「ないよ」
あっさりとメイは肯定する。
「でもキールの気持ちは解ってんだろ?なら、夜這いでもかけて……」
がこ!!
「ってぇ〜〜姫さん、本気で殴ったな!」
「当たり前ですわ」
つん、と澄ました顔でディアーナは指を振った。
「たとえ両思いなのが解っていても、ちゃんと言葉にして下さらなければ駄目なんですわ!」
「いや、まあ確かにあたしから言っても良いんだけどさ〜」
キールから告白するのを待ってたらこの調子だととっても時間かかりそうだし、と苦笑しながらメイは頭を掻いた。シオンが不思議そうに首を捻る。
「何で言わないんだ?」
にっこり、可愛らしくメイは笑った。
「どうせなら、相手に先に言わせたいじゃない」
その方が立場が有利になるしね。けろりとして言う少女に、シオンは肩を落とした。
「嬢ちゃん……………ひでえ……」
「そお?あんたに言われたくないんだけど。こないだの女官……」
「わーっ!解った解った!!」
「女官?」
静かな声でディアーナが呟く。
「あ」
ごんっ!!
ディアーナの渾身の一撃で、シオンは地面に沈んだ。

「キール」
王宮書庫で本を読んでいたキールは、一番会いたくない人物に声をかけられて苦い表情を浮かべた。
「……………姫」
「今すぐメイに告白しなさい!」
びしいっ!とディアーナはキールに指を突きつける。キールは目を点にした。
「………………………………………は?」
「でないと、私がメイに告白しますわよ!!」
「な!?」
「今だって私とメイは相思相愛ですわ、キールなんかに負けませんわよ」
ディアーナとメイの過剰なスキンシップを思い出して、キールは蒼白になった。
「ひ、姫には恋人がいるでしょう!」
「そんなの、メイにくらべればかぼちゃですわ」
あっさりとディアーナは言ってのける。
「メイが幸せならと思って身を引いてきましたけど、キールがいつまでたってもぐずぐずしてたら、メイはおばあさんになってしまいますわ!そんなのメイが可哀想ですわっ!それくらいだったら、私がメイを幸せにしてみせますわっ!!いいですわね?キール」
「いいわけないでしょうっ!!」
ここが書庫だという事を忘れて、キールは叫んだ。途端に、周囲から非難の視線が飛ぶ。
キールは慌てて声を低めた。
「大体、女同士でなに考えてるんですか?」
「ああ〜ら、やってみなければ解りませんことよ」
腕を組み、自信たっぷりにディアーナは微笑んだ。
「キールより、女同士の私の方が色々と有利ですし、色・々・と………うふふ」
「……………………ッ!!」
王室書庫を飛び出したキールが、その足でメイに告白しに行ったのは言うまでもない。
そして、勢いあまってそのままメイを押し倒し、彼女からファイヤーボールをくらったのであった。


おまけ

「そういえばメイ、少し痩せましたわね?」
「あ、そうなのよ!それがね、こっちの世界ってバスも電車もないから全部歩きじゃない」
「メイは、馬車を使いませんものね」
「高くて遅いからね。………とにかく、歩きまくってたらさ〜、それが良い運動になったみたいで」
「キールに一日中監視されてて、そのストレスで痩せたのかと思いましたわ」
「あはは、あれでキールってね、あたしに気づかれてないと思ってんのよ〜」
「…………………馬鹿ですのね」
「学者馬鹿なのよね。でもその方が上手く操縦できるからラクよね」
「そうですわね、確かに簡単でしたわ」
こんな会話が王宮の一室で交された事を、キールは知る由もなかった………………合掌。


    あとがき
    はい、これが没になったプロットです。……くっだらないでしょう(笑)。
    なんとなくディアーナ×メイ…というか、ディアーナ総攻め。

    管理人
    爆笑!ですね・・・・。キレかかったキールが笑えます。
    でも、このディアーナってかなり友達思いですよね。あと、シオンとのやり取りが楽しい。

ライン

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