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深夜。 目の前の文献に深く集中していた青年、キール=セリアンは、ふいに横合いから伸びてきた手に眼鏡を奪われ、ひどく驚いた。
「キールってば、働きすぎ!
ランプの灯りに浮かび上がったのはつややかな茶色の髪。
「・・・驚かすなよ」
いきなりこんなことをするたった一人の心当たりの人物の姿に、彼は、ほっとするのと同時に胸がざわめくのを感じた。
驚いたことが気恥ずかしくもあり、あえて彼女を無視することに決めて、そして再び書物の世界に没頭しようとした。
「ちょっとー!聞いてんの!?」
もともと度の入っていない伊達眼鏡である。
「えい!これならどう!」
「お、おい、何をする!」
甘えたがりの猫のように、腕をかいくぐってもぐりこみ、膝の上に乗って彼と書物の間を遮ったのだ。
「ふふん、これでもまだ続けられる?」
孤独に、他者を拒絶して生きてきた彼の人生に突風を吹き込み、静かだった彼の世界に騒音とトラブルと、そして、胸が痛くなるほど人を恋う想いをもたらした彼女。
いつだって自分は彼女にかなわない。
だけど、まだ素直に認めるのは癪に障る。
「やめろ、重い」
本当は、華奢で軽くて、柔らかくあたたかい体の感触は、彼にとって心地よいものだったけれど。
「なんですってぇ?可憐なオトメになんてこと言うのよ!
・・・そして、心臓は暴走した。
顔を真っ赤にした彼は、動揺を隠しきれない事を認めてとうとう降参した。
そんな彼に対し、彼の膝の上の少女も、やはり頬を赤らめてそっぽを向いた。
「わ、わかればいいのよ。
「まったく、お前にはいつもいつも、かなわないよな、俺は」
そうして、お互いを何より大切な宝物としている二人は、互いの鼓動を聞きながら、かけがえのない人と出会えて、そして一緒にいられる奇跡を女神に感謝するのだった。
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