魔法の名前

りあ

ライン

「帰るために努力してきたなら、そうした方がいい。」
キールの声が聞こえる。
「俺が呼び出したのが事の発端だからな。・・・すまなかった。」
そんなこと、言わないで。
楽しかった、この世界。
好きだった、ずっと。
キールには、迷惑でも。
でも、もう、会えないんだね・・・・。

最後まで笑ってあげる。
泣いてなんかやらない。
何も言わない。
伝えたりしない。

言えることは、
元気でね。
ありがとう。
さよなら・・・・・・。

光が覆う。
全てを。
私の目から今までいた世界を、愛する人を隠していく・・・。
その時、鋭い痛みが心を突き抜けた。

もう、会えない!
触れることも、話すことも、見つめることも、できない!
二度と会えない。
こんなに苦しいのに。
こんなに悲しいのに。
この思いはどうなるの?
この思いを抱えたまま、これから生きていくの?
この思いは時が経つと消えるの?
こんな思いをずっとしなくてはならないの?
こんな思いが続くのなら。
どうせ会えないのなら。
ならば・・・・・・・・・。


・・・車の音が聞こえる。
あはは・・・ここ、学校だ!!
帰ってきたんだ・・・!

    ・・・・え?
    ・・・・帰ってきた?
    ・・・・どこから?

「・・・芽衣なの?」
「え?」
懐かしい友達がいる。

    ・・・・懐かしい?

騒ぐ友達達を見ていて、涙が溢れてきた。

    ・・・・嬉しいの?
    ・・・・悲しいの?

分かるのは、
友達に会えて、嬉しいこと。
とても、心が苦しいこと。
そして、涙が止まらないこと。


半年ほど行方不明になっていた私は、結局、留年してしまった。
新しい学年の友達もできた。
・・・・でも。
あれから1年がたったけど。
今でもふと思う。
私はどこへ行っていたんだろう?
何も、覚えていない。
なのに、考えようとすると心が苦しくなる。切なくなる。
帰ってきたとき、持っていたものは何もない。
服も、行方不明になる前と、同じ。
どこへ行っていたのか、示す物は、何もない・・・。


お店で買い物をする。
可愛いアクセサリーのお店を、覗く。
なんで、買ってしまったんだろう?
目が、離せなかった。
私にはちょっと高価だったのに。
結局、買ってしまった。
エメラルドの、ペンダント。
透き通る、緑。
銀の細い、縁。
あいつに似てる。

    ・・・・え?
    ・・・・あいつって誰?

考えると切なくなる。
見ていると悲しくなる。
でも、手放せない。
だから、身につける。


また、1年が過ぎる。
19歳に、なった。
これであいつと同じね。

    ・・・・あいつって誰?

何度も繰り返した言葉。
もう、考えることは止めた。
考えても、分からないから。


「付き合ってくれませんか?」
背の高い、男の人。
そんなに悪くない、顔。
優しくて、面白い、人。
でも・・・・。
「ごめんね。私、好きな人がいるんだ。」

    ・・・・え?
    ・・・・好きな人って、誰?

「そうですか。」
「ごめんね。」
誰が好きなのか分からない。
でも。
この人ではダメ。
そんな気がする。


また、1年。
20歳になったばかり。
大人になった。
「遅くなっちゃったな。」
短大の友達と飲みに行った帰り。
ちょっと酔っているから気分がいい。
いつもの公園を駆け抜ける。
ここを抜ければ、家はすぐ。

「メイ・・・。」
「え?」

振り返る。
公園の真ん中、噴水の、そば。
佇む、人影。
淡い茶色の髪。
緑色の瞳。
銀色の眼鏡。
赤い肩掛け。

    ・・・・誰?
    ・・・・分からない。
    ・・・・でも、知ってる。

苦しい。
切ない。
悲しい。
ダメ。側にいては。本来側にいるはずのない人。
何も分からないのに、心が警鐘を鳴らす。
また、苦しい思いをするの?、と・・・。

「誰?」
「メイ・・・?」

切なくなるような声。
聞き覚えがあるのに誰だか分からない。
酔っているからかな・・・?

「覚えてないのか・・・・?」
「何を?」
「3年前の、こと・・・。」

3年前。
行方不明になっていたときのこと、この人は知っているの?
「3年前って、記憶喪失の間のこと?」
「記憶、喪失・・・?」
「ええ。知っているの?あなたは、誰?」
「覚えていないんだな・・・・・。」
「・・・・・。」
「覚えていないのなら、いいんだ。・・・さよなら。」
苦しそうな顔。
辛そうな顔。

    ・・・・どうして?
    ・・・・どうしてそんな顔をするの?

去っていく、その人。

    ・・・・待って。
    ・・・・行かないで。
    ・・・・連れていって。

    ・・・・どこに?
    ・・・・帰る家はすぐそこ。

体は動かない。声も出ない。
行かない方がいい。
知らない方がいい。
そういうこともあるのよ、と。
頭が痛い。
何も考えたくない。
痛む頭を抱えて自宅に帰り、そのまま眠る・・・。


朝、起きる。
ふと思い出す、あの人。
あれは誰なんだろう?
懐かしい気がする。
もう一度、会いたいな・・・・。
無意識のうちにまたあの公園に来ていた。

「・・・メイ・・・!」
「え?」

また呼ばれる名前。
でも・・・振り返った私が見つけたのは、あの人じゃない。
腰までの長い金髪。
緑色の瞳。
美しい、女の人。
誰・・・?
でも、やっぱり懐かしい。

「ちょっと、話をしませんか?」
「え・・・?」
「覚えていないのは聞きました。でも、話すくらいはいいでしょう?」

噴水の前のベンチに座る。
沈黙の中、ふと、彼女は私の胸元を見て言った。

「そのペンダントは・・・どうしたんですか?」
「買ったの。お店で一目見て、気に入っちゃって。」
「全て、忘れてしまったんじゃないんですね。」
「・・・え?」
「本当に、何も覚えてないんですか・・・?」
「ごめんなさい・・・。」
「いいえ、いいんですよ、私は。でも、あなたはそれでいいのですか?」
「私・・・?」

彼女は微笑んでいた。

「忘れてしまったわけじゃないんですよ、あなたは。」
「・・・えっ・・・?」
「そのペンダントは・・・似ています。」
「・・・何に?」

その質問には答えず、彼女は言った。

「好きだったんでしょう?」
「・・・・え・・・?」
「・・・キールを。」
「・・・・・きぃ・・・・・・る・・・?」

ぐるぐると頭の中をその名前が回り出す。
頭の中に浮かぶ昨日の彼の姿。
辛そうな表情。

    覚えてろよ、お前は。 俺は、ずっと覚えてるからな。
    お前が、帰っても・・・俺は覚えてるからな。

ふと頭の中に出てくる言葉。
愛しい人の、その名は魔法。
解除の呪文。
思い出す。全てを。

「・・・・あ・・・。」

ぽろぽろと溢れ出す涙。
そう、だ。
ずっと、好きだった。
でも、言えなかった。
離れてしまうのなら、二度と会えないのなら、と。
私は私に魔法をかけた。
全て忘れてしまえ、と・・・・・・。

「シル・・・フィス・・・・・・・。」
「思い出したんですね、メイ。」

そう言いながら涙を流す私に微笑みかけるのは、異世界の友人。
女性に、分化したんだ・・・・。
とても美しくなって、でも、変わらない友人。
そして・・・・・・・
現れる、懐かしい、人。
何も言えず別れてしまった、愛しい、人。
昨日の人・・・・。

「・・・・キールっ!!」
「メイ・・・・。」

思わず、抱きついていた。
どうして、忘れていたんだろう。
こんなに愛しい人を。
・・・ううん、違う。
こんなに愛しいから、忘れていたんだ。
きっと、あのままじゃ耐えられないから。


抱きついた私の髪を泣いている間ずっと撫でていてくれた。
あの頃と同じ・・・。

「ごめんね。」
「何がだ?」
「忘れていて。」
「いいさ。・・・遅くなった俺が悪いんだから。」
「・・・・え?」

穏やかに微笑んでいたキールの表情が真剣になる。

「メイ・・・・・一度しか言わない。」
「・・・え?」
「ずっと好きだった。」
「・・・・・・。」
「・・・何も無い俺だけど、一緒にいて欲しい。」
「・・・キール・・・・・・。」

また、涙が溢れてくる。

「泣くなよ。」
「だって。」
「返事は?」
「・・・・大好き。」


さよなら、私の世界。
さよなら。
もう戻らないから・・・・!

シルフィスとキールとクラインへ戻る。
白光の中、私は自分の世界へ別れを告げる。
光が消えたとき。
現れたのは懐かしい風景。
初めて出会った場所。
そしてそこには、懐かしい人々・・・・!!
私は言う。
とびっきりの笑顔で。

「ただいま!」


ライン

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