メイは元の世界に帰らないと決め、正式に真導士になるため勉強に励んでいた。キールの出した課題から逃げ出し、遊び歩いていたかつての姿は其処には無く、キールだけではなく、ありとあらゆる科目の教授達を閉口させるほどの勤勉ぶりを見せていた。目を見張るほどに成長をみせたメイをねたむ者たちも少なくは無かった。
『異世界人なんて言ってるのは長老達の関心を引くためじゃないのか』
『魔物だったりして』
くだらないと思っていた。あんな奴等を相手にするほど俺はヒマじゃないと思っていた。
だからあの時、あいつが俺の為に怒っていたのを見ても何とも思わなかったはずなのに。
だけど、今の俺にはあいつに対する陰口を黙認することは出来なかった。一生懸命生きているヤツを、生まれや家柄で見下す奴等なんて其処等中にいるのに。
誰よりも一生懸命で、誰よりも悲しい奴だった。メイというやつは。あいつの預かり知らぬ所で行なわれた俺達の実験の犠牲となり一人ぼっちにさせてしまった。帰りたいと願うあいつの心を俺の我侭でこの世界に留まらせてしまった。それでもいつでも前向きに生きているだけなのに・・・
そう、俺はあの時、唯・・・許せなかっただけ・・・
「ケンカしたんだって」
キールの喧嘩の話は魔法研究院中で誰も知らない奴はいないほど、噂となっていた。噂を聞きつけキールの部屋を訪れたメイは開口一番そう呟いた。
「ああ」
「で、原因は?」
「大した事じゃない」
『ふう』と溜息をつくと、メイはキールの傍へと近づいていく。キールはというと、既に魔法で怪我を治したらしく、まるで何も無かったかのようにいつもの通り研究を続けていた。
「・・・あたしが原因なんだって?」
「・・・・・・」
「長老達が教えてくれたよ。キールさ、前にキールが陰口叩かれた時に言ったよね。『あいつらは俺のことを言ってるんであって、お前のことを言ってるわけじゃない。どうしてそんなに怒るんだ』って。今回のはあたしの事だよ」
以前メイがキールの陰口を叩いている奴等にはむかった時、キールは確かにそう言ったはずだった。
「お前の事だからだ」
「え・・・?」
「お前の事だからだと言ってるんだ」
真っ赤になりながらキールはそう叫ぶ。一瞬メイと瞳が合わさるが、バツが悪そうにキールの方から視線を外していった。メイからして見れば、そんなキールの仕草がちょっと拗ねた子供のようで可愛くてしかたがない。
メイはキールの後に周りこむと、するっとキールの首に腕をまわした。
「ありがとう・・・」
キールの首筋に顔を埋め、メイは微かに囁いた。
「暫くそのままでいてくれ」
自分の首に回されたメイの手を自分の手で包み込み、背中に感じるメイの温もりに身をまかせていた。心臓の音、呼吸のリズムそこにメイが居るという何よりの証拠。すべてが心地いい。
「・・・俺のことなら良い。自分でどうにか出来るからな。だが、まだお前は半人前だ。騒ぎになった時、歩が悪いにはお前の方だ。それに…お前は俺が守ってやるから、心配する必要はない」
「うん、キールはあたしが守るからね」
キールは腕を緩めるとメイと向き合うように方向を変え、メイを膝の上に抱き上げた。
「ずっとここにいろよ」
「いつでもキールの傍にいるからね」
「帰るなんて言うなよ」
「信用してないなぁ」
「「愛しているから」」
メイはもう一度キールの首に腕を回し、優しい口付けを奉げた。
メイだけが俺を救ってくれる。どうしようもない俺の孤独をこの手だけが癒してくれる。もう手放せない。失いたくは無い。メイがこの世界に残ってくれた時、いや、俺を選んでくれた時、俺の心は救われたのだから。
この手を離さないためになら、何度でも『愛している』の言葉を伝えたい。いつか『ありがとう』を伝えるまで。
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