いつか

久方蒔様

ライン

沈む夕日。

学校の屋上で、ただそれを見つめているとため息が出る。

とろける朱金の夕暮れから、立ち上る記憶は、ただ一人。

「・・・・・・」

声に出さず、そっと呟く。

異世界―――半年もの間過ごしたあの場所から、この世界にもどってきて、3ヶ月。

この世界は生まれた場所で。

大切な人がいて。

とても過ごしやすい。

でも。

それだけでは、どうしても補えないものがある。

何度も繰り返してくれた、涙を止めるための呪文。

『必ず帰してやる、元の世界に。だから泣くな』

気付けば心が傾いていた。

その眼差しの強さに、真摯な誓いに、もう言葉は続けられなかった。

その恋は甘いよりも苦くて。

伝えられない想いは苦しくて。

『元気でな』

優しい瞳で、撫でてくれた手が離れたときに、忘れようと思った。

薄闇の中。仄かな灯りに照らされた翠色。

『覚えてるからな・・・ずっと・・・お前が忘れても、俺は覚えてるから』

耳に残る、言葉。

『覚えてるからな・・・ずっと・・・お前が忘れても、俺は覚えてるから』

繰り返される、過ぎた日の思い出。

「・・・・・い」

忘れることができたら、どんなに楽だろう。

誰かが信じてるよりも、ずっと弱い自分。

いつかなんて夢はみない。

叶わない夢なんて見れない。

「・・・・・・ル」

だから風が言葉をさらってくれるこの場所でだけ許して。

ただ、言葉を、願いを口にすることを。

「逢いたい」

いつか、他の人を好きになる日なんてきっと来ない―――

胸にあるのはただ一人だけ。

ライン

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