祈り

久方蒔様

ライン



我知らず青年は祈る。
それは彼に与えられた習慣。

『女神よ
 ただ一人 
 この世界の嬰児ならぬ乙女に
 貴方のご加護を―――』


彼は孤独を愛していた。
孤独であることが彼の平穏だった。

彼の周囲は羨望と中傷で満ちていた。
けれど彼にとってそんなことはどうでも良かった。

孤独と言う名の平穏の中に混じるのは
焦燥と苛立ち。

己の未熟さへの焦り。

人に交わることより研究を
研究の中に己の居場所を彼は求めていた。


孤独と言う名の平穏
    それを壊したのは 異世界の嵐

苛立ちと、怒りと、戸惑い 
    平穏だった彼の中に吹き荒れた感情

責任と、焦燥と、誓い
    彼女の為だけに費やされて行く時間


太陽のように笑う少女が齎したのは

開かれた世界と
痛みを伴って開かれた心

人を 恋うる心


『必ず帰してやる、元の世界に。だから泣くな』

その言葉に偽りは無かった
彼女の涙は彼の心を痛ませた
だから誓いは守られた


『元気でな』

見上げた瞳が宿した透明な輝き
止めてやりたいと思っていた涙
震えそうになる手を気付かれなかっただろうか

『ありがとう、元気でね』

別れの言葉が齎した透明な笑顔
宿っていた涙が弾けた


『女神よ
 ただ一人 
 この世界の嬰児ならぬ乙女に
 貴方のご加護を

 彼女に平穏と幸せを
 涙で笑顔を曇らせることの無い世界を』


彼は彼女を愛していた
否、愛している。

彼の周囲には信頼と笑顔が残された。

孤独の代わりに彼に与えられたのは
生涯消えない人を恋うる気持ち。

人の為に祈ることのできる心


『女神よ 
 この偽りに満ちた心の中から
 ただ一つの真実を』

『どこでも良いのです
 彼女が幸せであれば

 彼女が涙で笑顔を曇らせることのない
 世界を与えられるなら』


祈りが満ちたとき
女神は微笑む

乙女の求める世界を
青年の求める世界を

奇跡という名の下に世界は再び開かれる

いつか
それは信じれば訪れる未来

決して閉ざされることのない明日―――

ライン

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