たとえば、女の子だったら一度は雑誌で見た言葉。
ファーストキスの味は?
・・・・・・・ねえ、こっそり聞いてもいい? 本当に味ってするの?
「えええっ、何をおっしゃってますの、メイ!」
王宮の一室、ディアーナの部屋でいつものお茶会。
その最中にディアーナが大声を張り上げた。
「・・・・・・何も、そんな大声上げなくても」
対するあたしは、多分、憮然とした面持ち。
ってかさー、そんな驚かれても・・・・ねぇ・・・・。
「あなた、キールと、まだ、キスもしてないんですの!?」
そ、まだ、何も。
あたしが元の世界に帰らないと決めて1ヶ月。
まあ、理由はこっちに好きな人が出来たからで。その好きな人ってのがキールなわけだけど。
一応、恋人同士になってからも1ヶ月経っても――あ、言っとくけど、先に好きって言ったのはキールだからね?――あたし達の間にはイワユル「恋人同士の進展」というものが全く無い。
別にさ、いいけど。
キールが奥手なのはうすうす気がついてたし。
あたしも、まあ・・・・誰かと付き合うなんて初めてなわけだし。
「おかしいですわ。ずぅうぅえええったいに、おかしいですわっ!」
握りこぶしでディアーナが力説する。
あのさ、あんた一応お姫様なんだから・・・握りこぶしはまずいんじゃ?
「話をはぐらかさないでくださいませ!」
・・・・・・・・・・・・はい。
「キールはメイが好きで、メイはキールが好きなんでしょう。なら、イクとこまでイクのが当然ですわ!」
・・・・・・・ディアーナ。あんた、あのスチャラカ魔道士と付き合うようになって、確実に変ったよね・・・・なんか、今の発音違うよ。
「ま、嫌ですわ、メイったら」
ほほほほと、お上品ぶってディアーナが椅子に座りなおす。
「でも、キスの味は秘密ですわ。だって、シオンの味はわたくしだけが知っていればいいんですの」
「おい、メイ」
魔法研究院に帰って、何するでもなしにキールの部屋で居座っているあたしに、キールが声をかけた。
「んー?」
こっちを見る顔は相変わらず眉根を少し寄せて不機嫌そう。でも翠の瞳は、ちょっと困った感じなのが分かる。
「何か用があるなら言え。そう見られたんじゃ、落ちつかない」
別に用というほどのものじゃないんだけど。
やっぱり、見てたのかな・・・。
「何かあったのか?」
二人っきりのときだけ、キールはこういう優しい声になる。
でもね、こういうこと言うの恥ずかしいのよ。
ディアーナがシオンの味って言ってたってことは、キスってその人の味がするのかなーとか。じゃあ、キールってどんな味がするんだろう・・・とか、さ。
「別に。邪魔なら部屋に帰るわよ」
立ち上がりかけたあたしを、キールの手が止める。
「帰れとは言ってないだろ」
キールは一応外聞を気にしてあたしの部屋には入り浸れないから、二人っきりでこうしてられるのはあたしがキールの部屋にいるときだけ。
あたしも別に帰りたいわけじゃないけど。
気まずいし。
そう思いつつもあたしはソファーに座りなおす。
と、今度はキールがあたしの方をそれとなく伺っている。
「何?」
「別に・・・」
不機嫌そうな顔に隠した本当の表情は、気まずいって感じ?
「何よー」
あたしと違ってキールは自分の気持ちをあんまり言葉にしないから、こうしてこっちが気をつかってあげないといけない。
たまに思うんだけど、これってアイシュが甘やかしすぎたからじゃないの?
ぐいっとキールの頬を手で挟んで無理やりに視線を合わす。
・・・・・って、え?
気がついたら、逆に手を取られて―――あたしに触れていた、キールの唇。
ふ、と離れて、目に入るのは翠の瞳。
「なぁ。今日、泊まってけよ・・・」
ばきっ。
「段階とばすな馬鹿ーーっ!!」
「で、殴って出てきてしまいましたのね・・・・」
呆れた様にディアーナが溜息をつく。
「だって〜〜〜〜〜っ!!」
ばふんとディアーナの横の枕に顔をうずめて唸るけれど、ディアーナの追求は容赦がない。
「そういうことは、最初が肝心ですのよ。逃げてどうしますのっ」
「せめて、キスだけで止めてくれたら殴らなかったわよ」
初めてだから、少しずつ進めて行きたいのに。
(・・・・・これだからキールが手だし出来ないんですわ)
「で、味はしましたの?」
一つ年下のくせに、立場逆転だわ・・・お姉さんっぽく聞くディアーナがくやしいかも。
でも唇に蘇るのは柔らかいような、つめたいような、優しいような不思議な感じ。
「・・・・・秘密」
ディアーナの話を聞かせてくれたら話してもいいかなと思うけど。
やっぱり特別なことだから、もう少しだけ、あたし一人のものにしておこう。
甘いって思ったってことは、キールの唇って甘いのかな。
甘いものが嫌いなはずなのに、変なの。
・・・・・明日、仲直りしたら、キールにも聞いてみよう。
ね、キスの味ってどんな味がした? って。
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