ハッピーバレンタインアンダー

湖乃 様

ライン

「食べた分だけ触らせてあげる」
挑発的な台詞には不似合いな程、無邪気な微笑を浮かべながら少女は言う。
「右腕を食べたら、あたしの右腕に触っていいよ・・・髪の毛食べたら、髪に、触らせてあげる。足を食べたら、足に触っていいし・・・・・・頭のてっぺんからつま先まで全部食べたら、あたしを食べさせてあげる・・・・キールが、このチョコレートのかたまりを食べられるなら、だけどね?」
緋色の肩掛の魔導師の前にあるのは、少女そっくりのチョコレート製の人形、それもかなり大きな物だ。甘いものが大の苦手である青年にとって、食べるには辛い量だった。
しかし・・・目の前の茶色くて甘いかたまりを食べれば食べるだけ、御褒美が付いてくる。
「メイおまえ、前から思ってたんだが・・・」
はーっ、と、青年はため息をついた。
「人が悪くないか?」
心底嫌そうな目で『チョコレート製メイ人形』を凝視している青年の姿を見て、少女は楽しげにきゃらきゃらと笑った。
「知ってる?キール」
身軽な動作で窓枠に腰かけ、少女は足を組んだ。短いスカートの裾が上がり、太ももがあらわになる。それに一瞬目を奪われた青年は、眉をきつく寄せぎこちなく少女から視線を外した。
その様子にくすり、と少女は笑いを零す。
「キールの、そういう姿ってね?あたし、好きみたいよ」
「そういうって・・・どういうのだよ」
「自制心と感情が反対に動いて、どっちの方に傾くこともできなくて・・・ただ、苦しそうな顔で突っ立ってる姿」
「な・・・」
「すごくそそるの」
「おまえ、何言って・・・」
「虐めてみたくなるのよ、とても」
「ふざけるな!!」
楽しそうに笑う少女を睨みつけ、青年はチョコレートの人形を手に取った。そして、視線で睨み殺せそうな程きつくそれを凝視する。
「俺は、おまえが何を考えているのか全然解らない。何で俺はおまえを好きなんだ?」
「解らないの?」
「ああ、解らないさ」
苦々しく吐き捨てる青年に、少女は問いの答を投げた。
「それはね、あたしがキールを好きだからよ」
そう言った少女のほとんど母親の様な口調に、青年は息を飲んだ。
少女は優しく、ひどく優しく青年に微笑む。
「だから、キールはあたしが好きなのよ」
わからずやの子供に噛んで言い含める様に少女は語りかける。青年は、そんな少女に眼差しで縋り付いた。
「じゃあっ・・・・・・、じゃあ、何でおまえは俺を・・・俺の事が好きなんだ?」
「解らないの?」
「解らないよ」
強く握り締めた手の中で、少女の形をしたチョコレートが崩れていく。その破片が床に墜ちてゆくのを目で追いながら、少女は窓枠から身体を離した。
ぎゅっと固められた青年の拳ごと、無残な姿になった人形を両手で包み込む。
「あーあ、アイシュの力作だったのよ、コレ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「食べたら触らせてあげるって言ったのに」
「どうでもいい・・・そんなこと」
拗ねた口調で青年は言葉を続けた。
「だいだい、俺が触らなくてもそうやっておまえが俺に触るじゃないか、・・・・・・いつも」
「だって、キールに触るの好きなんだもの」
少女は青年の顔を両手で挟み込んだ。ぐいっと自分の方に引き寄せると、そのまま青年の唇に自らの唇を重ねる。青年の手から、人形の残骸がばらばらと床に零れ墜ちた。
「あたしがキールを好きなのはねえ」
ぎゅう、と少女は青年を抱きしめた。それに応えて、青年も少女の身体に腕を廻す。
「キールがあたしを好きでいてくれるからだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「あたしの人形壊したね」
「悪い・・・」
ばつの悪い表情を浮かべた青年に、歌う様に少女は言う。
「人形を全部食べたら、あたしを食べさせてあげる・・・・そういう約束だったね」
「おあずけか?この状況で」
「人形を食べたら、あたしを食べていい、人形を壊したら・・・」
にっこりと、少女は青年に微笑みかけた。
「あたしの事、壊していいよ・・・」


「しかしな、メイ。おまえの理屈はどうどうめぐりじゃないか?」
「ん?」
「卵が先か鶏が先かになるような気が・・・」
ひとつのふとんに一緒にくるまっているという状況でそんな事を言う青年に、少女は呆れた様に肩を竦めて見せた。
「いいじゃない、ふたり同時に相手に惚れたって事にしとけば」
「いや、しかしな・・・」
「もー、ばかキール!!」
少女は青年の頭に手を伸ばすと、自分の裸の胸に押し付けた。
「お、おいっ」
慌てる青年を無視して、少女はぎゅうっ、と青年の頭に廻した両腕に力を込めた。
そして、高らかに宣言する。
「いいから、あんたは黙ってあたしに惚れていなさい!」
青年は何も言わず、ただ黙って微笑んだ。



    湖乃様
    ・・・・・・・別人28号。キールもメイも何だか違う人(汗)。
    人形の設定は、冷静に考えると変態的ですよね・・・という事で、続きを書いてみたのですが何でしょうコレ・・・。えげつない表を目指してみた(泣)んですが、玉砕。
    ああ、石を投げないでっ!ダッシュで逃走!!

    管理人
    逃がしませんよぉぉぉぉ。ほら、湖乃様の腕にはすでに縄がくくりつけられてますわ。(笑)
    こういうメイも可愛くていいと思いますけど、皆様どう思われますか?


ライン

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