明日の向こう側

りあ

ライン

〜メイ〜

「さて、と。これで終わりっと。」
一通り見回してからメイはうなずいた。
まだ木の香りのする部屋には新しい家具が並んでいた。あたしの趣味で彩られた部屋を見るとなんかとても幸せになる。
「・・・っと、もうこんな時間か。」
メイは1階に下りると机で本とにらめっこしているキールに声をかけた。
「そろそろ食事にしよ。コーヒー入れるから。」
「ああ。」
それだけ声をかけるとパタパタを階段を駆け上がると食事の準備を始めた。どうせ声をかけてもキールが上がってくるまでには結構時間がかかる。これから準備を始めてもOKだから。
「もう片づけ終わったのか?」
案の定、準備が出来た頃キールが上がってくる。
「うん。もともとあんまり荷物なかったしね。」
「そうだな。」
「キールの書物の方が多かったもん。」
「仕方ないだろ。」
「悪いなんて言ってないわよ。」
ポンポンといつものように会話をしながら二人で食事をする。
ごちそうさま、と呟くとキールが立ち上がった。あたしも片づけようと立ち上がる。とその時目の前が急に暗くなってあたしは気を失った・・・。

ふと気がつくと、エメラルドの様な瞳が心配そうにこっちを見ていた。
「え?キール?」
思い出した。食事をした後、気を失ったんだっけ。もう外は真っ暗だ。
「大丈夫か?」
いつもに比べて優しい声。ちょっとびっくりした。
「ずっと・・・ついててくれたの?」
「ああ。」
「めずらしく、優しいんだ?」
「・・・・・。」
何も言えないキールが楽しくて思わず笑ってしまった。
「何笑ってるんだよ。」
やっぱり不機嫌そうにしてる。あたしがくすくすと笑っているとキールがぽつりと言った。
「ごめんな。」
「え?」
急に言われて何のことか分からなかった。
「倒れるまで頑張っていたのに・・・気付かなかった。」
優しい、声。
「心配した?」
「ああ。」
それだけなのに、心配してくれたんだ、と思うとすごく嬉しかった。
「ありがと。」
「疲れてるんだから、もう、休めよ。」
エメラルドの瞳が近づいてきてあたしは目を閉じた。その直後唇に柔らかくて暖かいものを感じた・・・。

ライン

〜キール〜

「そろそろ食事にしよ。コーヒー入れるから。」
その声で我に帰った。
「ああ。」
そう返事して外を見るともう暗くなりかけている。声をかけた相手はパタパタと階段を駆け上がって行った。
「・・・もうこんな時間か。」
とりあえず切りの良いところまででやめると階段を上がった。部屋にはいると今朝まではまだ荷物のあった部屋がすでに片づいている。食事をしながらメイに聞いた。
「もう片づけ終わったのか?」
「うん。もともとあんまり荷物なかったしね。」
「そうだな。」
「キールの書物の方が多かったもん。」
「仕方ないだろ。」
「悪いなんて言ってないわよ。」
会話をしながら食事をする。研究院にいる頃は何もできないと思っていたメイがこんなに料理が上手だとは思わなくて初めは驚いた。
「ごちそうさま。」
もう少しで終わる仕事を仕上げなくてはと思って立ち上がった。メイも立ち上がる。とその時メイの体が崩れ落ちた。
ガタン
「お・・・おい、大丈夫か?」
慌てて抱き起こした。怪我はないがメイは気を失ったままだ。とりあえずベッドに寝かせると医者を呼びに行った。
治癒魔法は怪我を治すことは出来るが病気は治らないから。
不安でたまらない。
自分が思っているよりもずっと俺はメイを必要としていたらしい。
医者は過労だと言った。確かに一週間前にここに荷物を運び込んでからメイは毎日一人で荷物の片づけをしていた。・・・一階で仕事をしていた俺と違って。
後悔した。
メイがこんなに頑張っていたことに気付かなかった自分が情けなかった。
ただの過労と言われてさえ、不安で不安でたまらなかった。
・・・そして、自分にとってメイがどれだけ大事かを改めて思い知った。

・・・数時間後、メイがゆっくりと目を開けた。
「え?キール?」
「大丈夫か?」
「ずっと・・・ついててくれたの?」
「ああ。」
「めずらしく、優しいんだ?」
何も、言えなかった。
何もメイにしてやれなかったから。
そんな俺を見てメイが笑う。
「何笑ってるんだよ。」
むっ、として言うとメイはさらにくすくすと笑った。
よかった、そう思った。
「ごめんな。」
「え?」
「倒れるまで頑張っていたのに・・・気付かなかった。」
「心配した?」
「ああ。」
それだけなのに、それだけしか、言えなかったのに、メイは嬉しそうな表情をした。
「ありがと。」
・・・何も、気付かなかったのに、
・・・何も、してないのに、
・・・責められても仕方がないのに、
メイはそう言った。すごく、嬉しそうに。
失いたくない、そう思っていた。
そばにいて欲しい、とも思っていた。
そして愛しい、と思った。
「疲れてるんだから、もう、休めよ。」
それだけ言うのが精一杯だった。
・・・大切だから。
・・・そばにいて欲しいから。
・・・愛してるから。
そんな口に出せない思いを込めてメイの唇に唇を重ね合わせた。

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