「あいつってば性格はひね曲がってるけど、奇麗な目してるのよね。
芽生えたばかりの若葉みたいに鮮やかで。
じーっとこっち見られると、なんか調子狂っちゃうのよねー」
少女は急いでいた。有らん限りの力を振り絞ってダッシュしていた。
理由は簡単、門限の時刻が迫っているからである。すでに夕闇に沈み始めた町並みは、昼間の喧騒から夜の静寂へと緩慢に移り変わろうとしていた。
とはいえ、人通りが絶えたわけではない。家路を辿る主婦、はたまた酒場に向かう労働者が行き交う中、小柄な少女はちょこまかと栗鼠のように走っていた。
「やっばーーー!!もおダメ、完璧に間に合わないーー!!」
言いながら、尚も走る。短いスカートは、さんざん『はしたない』と言われ続けているが、全力疾走には便利な代物である。
ふええん、と大きな瞳に涙を浮かべる。『年頃の女が喚きながら走るな』と文句を付けられたこともあるが、こればかりは性格なので変えるわけにもいかない。
まあ、そんなことはどうでもいいわけで・・・。
「あああう〜〜!またキールに怒られるよう・・・」
親も兄弟もいない彼女―――正しくは、『この世界には』いないのだが―――に、誰が怒るかといえば。
それは後見人を務める青年が、である。
(うう・・・ディアーナと遊んでた、なんて言ったら、もっと怒られるよねえ・・・)
知的な容貌を不愉快に曇らせた様子を想像して、少女は絶望的な気分になった。
堅物で規律や礼儀にやかましい彼のことだ。門限を忘れるまで遊び呆け、しかも一国の王女が相手となれば、説教の種は有り余るほどだろう。
―――あの説教臭ささえば無ければ、けっこー好みなのにな・・・
しくしくと、今から落ち込みながら。
異世界の少女・メイは、ひたすら魔法研究院を目指していた。
その視界を、ちらりと過ぎったモノがある。
魔法学徒の最高峰。目にも鮮やかな紅色の―――
「はれ?キールだ・・・」
キール=セリアン。緋色の魔導士。亜麻色の髪と緑の瞳が涼やかな青年。
魔法研究院のホープ。秀才の誉れも高き、エリート魔法使い。
無愛想で口うるさくて神経質で、他人に対する(特に女性)デリカシーがどっか欠けてるとしか思えない鈍感さを併せ持った若者。
少女の目に留まった人物は、まさしく彼であった。
(はや〜、珍しいな。キールが街中にいるなんて)
彼との間に結構な距離が存在したこともあって、メイはすぐに声を上げはしなかった。
街の一角に佇んでいる青年にちょこちょこと歩み寄りながら、その様子を観察する。
「・・・何してんの?あいつは」
季節は夏。夕方とは言え、それなりの熱が大気に残っている。
当然人々の服装も軽く薄くなる中で、魔法研究院支給の白い詰め襟を、これまた見本のようにきっちりと着込んでいる青年は、否が応でも目立った。
人込みは嫌いだと言って、滅多に外出もしない彼である。それが何故か街角に突っ立って、気難しい顔をしているのだ。
かなり、異様である。
「きー・・・・・・ん??」
なんとか表情が判別できる位置まで来て、やっと名前を呼ぼうと口を開きかけ―――そのままメイは、固まった。
何となれば。キールが凝視しているものを、見てしまったからだ。
キールの瞳は美しい。本人はそう言うと嫌がるが、事実なのでメイは褒める。
その至宝の眼差しが、じっと見詰めるその先には・・・。
『ええッ!?
と・・・年頃の若くてきゃぴきゃぴ(死語)なお姉さんたちぃぃ!?』
メイは動揺した。
(うそうそっ、キールってば、確か『女は嫌いだ』って・・・)
しかし現実に、青年は熱心な目を彼女たちに向けている。それはもう、側にメイが近づいているのにも気付かないほど。
(あーあー・・・美形が見てくれるもんだから、おねーさんたち舞い上がっちゃって)
『ねえねえあのコ、あたしたちの誰を見てるんだと思う?』
『いやん、若いわぁ!こっちから声掛けてみよっか』
『ちょっと不慣れなカンジだけど、ステキよねえ』
などという浮かれた会話が、ここまで聞こえてくる。
どうやら悪い気はしていないらしく、彼女たちの笑顔は零れんばかりに華やかだ。
「・・・・・・・・・」
なんとなくいたたまれなくなって、メイはそっと踵を返した。
このまま黙っていても、キールはいつか自分に気付くかもしれない。しかしその時、彼が見ていたものを自分も見ていたと知れたら―――きっと気を悪くするに違いないと考えたのだ。
「そっか・・・キールも女のコに目覚める時が来たんだ・・・」
機械的に歩を進めながら、まだ動揺している心を鎮めようと深呼吸を繰り返すメイ。
考えてみれば、悪い事態ではない。と言うより、健康な男性としてごく当然であるような気がする。そもそも、19になるまでまともに女性を意識したことがないという方が問題だっただろう。
「しっかし・・・あのキールが、ねー?」
学問一筋で魔法オタクなせいか、恋愛事には淡白な印象があったので―――概ね正しい認識だったが―――それと知らされても、一向に実感が湧かない。しきりに首を傾げながら、メイはとにかく明るい方向に考えを持って行こうとした。
「う・・・うん、考えてみたら、メデタイわよね。
あいつにも、それ相応の情緒ってモンがあることが証明されたワケだし。
きっと、アイシュなんかは喜ぶわねー。お赤飯炊いたりして。あは、ははは・・・」
乾いた笑いを浮かべながら、メイは薄青く染まった天を仰ぐ。
そんな彼女を励ますように、まあるい月が東の空に顔を出していた。
その頃、キールは。
まだ突っ立ったまま、ぼんやりと考えている。
『・・・やはりメイにも・・・ああいう夏服を買ってやるべきか?』
見るべきは、女性用の夏服。
彼の視界には、きゃーきゃー騒ぐ女の子達の顔など全く映っていない。流行と思しき可愛らしい夏服の、明るい色目だけが思考を占めていた。
「いつまでもあんな足の見える服を着せたまま、出歩かせるわけにはいかないからな・・・」
個人的には目の保養が―――いや何を某先輩みたいな事を考えているんだ俺は、と自分を叱咤して、キールは再び沈思する。
メイは可愛い。メイが可愛い。
あんな風にクラインの服を着せてやったら、彼女は喜んでくれるだろうか?
そうやって蕩けた考えに沈んで、当の本人に気付かないでどーするッ!?という天のツッコミにもめげず、少女の瑞々しい手足を思い浮かべては、青年はひとりで真っ赤になるのだった・・・。
翌日。
「キールも、普通の男だったのねー。うんうん、良かった良かった」
「・・・・・・は?」
しみじみと肩を叩かれ、訝しげな表情になりながらも、メイの手が自分に触れているという事実がちょっと嬉しいキールである(それでいいのか!?)。
少女は急いでいた。早足のペースを守ったまま、トコトコと歩いていた。
理由は簡単、本の貸し出し期限が過ぎているのである。白亜の王宮は日差しに輝き、目に痛いほどの壮麗さで彼女を迎えた。
時間帯は昼休み。文官武官のお役人様方とあちこちで擦れ違う中、少女は回廊の分岐を確認しつつ渡っていった。
「はあう・・・そりゃ、うっかりしてたあたしも悪いけどさー・・・」
ぶつくさと呟く。手にした延滞図書を落とさないようにしっかりと抱え込みながら、少女は何度目かの恨み言を口にした。
溜め息も出る。ずっしりした装丁の重みと、昨日も派手に喧嘩した緑の瞳の保護者を思って。
「それだけで、あんな怒らなくってもいいじゃない。キールのやつ・・・」
縁もゆかりも無い自分―――異世界から呼ばれてきたのだから、あるはずもない―――の面倒を見てくれるのはありがたいが、もう少し容赦してくれてもいいのに・・・などと、つい思ってしまう。
(いーけどさ、もう慣れたし・・・)
怒鳴り声に慣れるのも、何か悲しい。ちょっとだけ自分を哀れんで、少女は頭を振った。
この調子で、どこまで怒られ続けるものか。決して彼を怒らせたいわけでも怒られたいわけでもないのだが・・・。
―――相性が悪いのかしらねー、あたしたち。
つらつらと、そう考えながら。
異世界の少女・メイは、ひたすら王宮書庫を目指していた。
その視界を、ちらりと過ぎったモノがある。
魔法学徒の最高峰。目にも鮮やかな紅色の―――
「あや?キールだ・・・」
キール=セリアン。緋色の魔導士。亜麻色の髪と緑の瞳が涼やかな青年。
魔法研究院のホープ。秀才の誉れも高き、エリート魔法使い。
慇懃無礼で人嫌いで、クールかと思えば割と根に持つ(特に敵対者)タイプだという、いかにも扱いづらい性格をした若者。
少女の目に留まった人物は、まさしく彼であった。
(あれ〜、珍しいな。キールが王宮にいるなんて)
彼との間に結構な距離が存在したこともあって、メイはすぐに声を上げはしなかった。
回廊の片隅に佇んでいる青年にテコテコ歩み寄りながら、その様子を観察する。
「・・・何してんの?あいつは」
所は中庭。美しく整えられた芝生と繊細な造りの噴水が、高貴な空間を演出していた。
青青とした樹木は今が盛りと生い茂り、小道の脇にはちょっとした木陰もできている。
昼寝には絶好のポイントだけど、もう少し日差しが弱くならないと―――等、いささか罰当たりな感想を抱いてしまう少女だった。
ところが。青年ときたら、その燦燦と降り注ぐ夏の陽光を受けても身じろぎひとつせずに立ち尽くしている。やかましいところは嫌いだといって、王宮を訪れることがあっても、素っ気無いほど短時間で帰ってしまう彼が、だ。
なかなか、不審である。
「きー・・・・・・んん!?」
なんとか表情が判別できる位置まで来て、やっと名前を呼ぼうと口を開きかけ―――そのままメイは、凍りついた。
何となれば。キールが凝視しているものを、見てしまったからだ。
キールの瞳は美しい。本人はそう言うと嫌がるが、事実なのでメイは褒める。
その至宝の眼差しが、じっと見詰めるその先には・・・。
『ええええッ!?
あ・・・あれって・・・ディアーナぁ!?』
メイは驚愕した。
(うそぉ!!さんざん『じゃじゃ馬王女』とか言ってたのに!?)
だがしかし現実に、青年は熱心な目を彼女に向けている。それはもう、側にメイが近づいているのにも気付かないほど。
(うっわー・・・何よあの切なそうな目つきは・・・)
『きゃあ、イヌさんっ♪くすぐったいですわぁ』
楡の木陰で、茶色の子犬と戯れている可憐な姫君。その麗しの笑顔を見つめたまま、亜麻色の髪の青年は小さく溜め息を漏らしている。その横顔は何処かしら物憂げで、彼の並々ならぬ想いが感じ取れた。
「・・・・・・・・・」
見ていられなくなって、メイはそっと踵を返した。
このまま黙っていても、キールはいつか自分に気付くかもしれない。しかしその時、彼が見ていたものを自分も見ていたと知れたら―――きっと彼は困るに違いないと考えたのだ。
「そ、そっか・・・キールってば、ディアーナが好きなんだ」
どこか虚ろな目を宙にさ迷わせたまま、メイは『ふははは』と意味もなく笑った。
考えてみれば、有り得ることかもしれない。ディアーナ姫は女の自分でも惚れ惚れするほどの美少女だし、性格だって良い。多少わがままな所はあるが、彼女の魅力と差し引きすれば大した問題でもないだろう。
現に、熱心な男性ファンも多いことだし・・・。
「うーむ・・・でも、あのキールが、ねー?」
真面目一方で学者バカなせいか、恋愛事には無縁な印象があったので―――全く正しい認識なのだが―――それと知らされても、一向に現実味が無い。深く悩み続けながら、メイはとにかく事実は事実として受け入れることにした。
「き、きっと『身分違いだ』なんて考えて、隠してたのよね。古風なんだからぁ。
そー言えば、こないだ見てた女の子の中にも、ディアーナに似たコがいたし。
そぉ、ね・・・あたしくらい、応援してやらなきゃ。あはははは、はは・・・」
弱々しいガッツポーズを作り、メイは明るい空を仰ぐ。
そんな彼女をうさんくさげに見ながら、王宮の面々は午後の執務に戻っていくのだった。
その頃、キールは。
まだ突っ立ったまま、ぼんやりと考えている。
『あの子犬・・・メイに似てるな』
見るべきは、コロコロ走り回る茶色い子犬。
彼の視野には、隣で何やら楽しげにしているクライン王国第2王女の姿など『へのへのもへじ』程度にしか描き出されていない。小さな前足を振り上げて無心に遊ぶ、子犬の元気な仕草だけが、彼の認識の全てであった。
「ふう・・・言い過ぎたんだよな、俺も・・・」
分かりやすい本を勧めてくれたという兄・アイシュを、メイがやたらと褒めるものだから、つい嫌味を言ってしまったのだ。決して喧嘩をしたかったわけではないのにと、昨日の口論について反省しきりのキールである。
メイは可愛い。メイが可愛い。
彼女にはいつも笑っていて欲しいのに。どうして自分はこうも不器用なのだろう?
そーやって呑気に襖脳してると、とんでもない誤解を招くぞ!!という天のツッコミなど知らず、プウっとむくれた少女の顔を思い出しては、青年は零れる溜め息を止められないのだった・・・。
翌日。
「あんまり思い詰めちゃ駄目よ、キール。あたしがついてるからね!!」
「・・・何が言いたいんだ、お前は」
唐突な言葉に戸惑いつつも、澄んだ茶色の瞳に熱意を込めて見つめられ、内心ドキドキなキールである(ときめいてる場合か!?)。
少女は歩いていた。少し肩を落として、トボトボと。
理由は簡単、買い物の予定がつぶれたからである。贔屓にしている小物屋で、前から目星を付けていた品が安売りされているとの情報を耳にしたのだ。
しかし、期限は本日まで。他人の手に渡らないうちにゲットしてしまおうと、小さな財布を握り締めた彼女は煉瓦舗装の道を駆けていったのだが・・・生憎、品物は売れてしまっていた。
「あーあ・・・ちょっと遅くなっちゃったかなあ・・・」
残念、と呟く。時間的には午後3時を回った程度だったのだが、何せバーゲンセール。
早い者勝ちの世界に、遅れは致命的である。
あうう、と動物のように呻く。出された課題に手間取り、保護者の承認を得て、ようやっと外出してきたのに。不便な我が身の境遇が、今更ながら悲しくなってくる。
「どーしてああも融通が利かないのよー!キールの石頭・・・」
確かな身寄りのない自分―――元の世界に帰れば腐るほどいるのだが―――の後見をするのは色々と大変なのは分かるが、あの頭の固さはどーにかならないか・・・等等、非効率な考えを巡らしてしまう少女である。
(キールに性格改変を求めるあたしが馬鹿なのよねえ・・・)
彼がリベラルな性格になることは、おそらく一生ないであろう。分かっちゃいるが、なんとかならないものかと考えずにはいられない。
―――まあ、柔軟なキールってのも何かヤダし。
こくこくと、何度か肯いて。
異世界の少女・メイは、諦めて家路を辿っていた。
その視界を、ちらりと過ぎったモノがある。
魔法学徒の最高峰。目にも鮮やかな紅色の―――
「ふえ?キールだ・・・」
キール=セリアン。緋色の魔導士。亜麻色の髪と緑の瞳が涼やかな青年。
魔法研究院のホープ。秀才の誉れも高き、エリート魔法使い。
寡黙かと思えば爺やのように口やかましく、冷静に見えて割と間抜けな(特に一般生活)部分もあるという、なかなか奥深い人間像を描く若者。
少女の目に留まった人物は、まさしく彼であった。
(また街にいる・・・どーなってんの?最近のヤツは)
彼との間に結構な距離が存在したこともあって、メイはすぐに声を上げはしなかった。
商店街のど真ん中に佇んでいる青年にこっそり歩み寄りながら、その様子を観察する。
「・・・何してんの?あいつは」
日暮れ間近の大通り。人の往来も激しいその中で、青年はじいいっと動かない。露骨に邪魔そうな顔をしていたり、肩にぶつかる通行人も少なくないのだが、彼の意識はどこか違う場所にあるようだった。
常識と良識を聖典のように第一に掲げている彼が、『どー考えてもコイツは変』と思われる行動を堂々と取るなんて。
おそろしく、異常である。
「きー・・・・・・うぎゃあ!?」
なんとか表情が判別できる位置まで来て、やっと名前を呼ぼうと口を開きかけ―――そのままメイは、燃え尽きた。
何となれば。キールが凝視しているものを、見てしまったからだ。
キールの瞳は美しい。本人はそう言うと嫌がるが、事実なのでメイは褒める。
その至宝の眼差しが、じっと見詰めるその先には・・・。
『ええええええッ!!?
そ・・・そんな、アレって・・・シオンんん!?』
メイは錯乱した。
(・・・・・・誰か嘘だと言って)
ところが現実に、青年は熱心な目を彼に向けている。それはもう、側にメイが近づいているのにも気付かないほど。
(やめてぇーーー!!幸せそうに微笑まないでええぇえ!!!)
可憐な花束を抱えたまま壁に寄りかかっている、青い髪の筆頭魔導士。十中八九、口説きのアイテムなのだろうことは、隣に寄り添っている美しい女性のうっとりした表情から見て取れた。
『嬉しいですわ、シオン様。私の好きな花を選んでくださったのね?』
『当然。ちゃんと知ってるんだぜ、俺は』
吹けば飛ぶような軽い台詞が、しっかりと耳に入ってくる。
そんなシオンの甘い笑顔に魅惑されているのか、若き緋色の魔導士は儚い表情のまま茫洋と立ち尽くしていた。
「・・・・・・・・・」
もはや掛ける言葉も無く、メイは泣きながら走り去った。
このまま黙っていても、キールはいつか自分に気付くかもしれない。しかしその時、彼が見ていたものを自分も見ていたと知れたら―――きっと彼は嘆くに違いないと考えたのだ。
「きーる・・・キールがああああ!!!」
溢れる涙がキラキラと宙を舞い、怒涛の勢いで走る少女を美しく彩る。
考えたくないが。全く、少しも、非常に考えたくないが。有り得ない事態ではないのかもしれない。
キールは割と繊細な青年だ。王女への叶わぬ初恋に絶望し、その反動で女性への興味を一気に無くして・・・ヤバイ方向に走ってしまうことも。
「だからって、だからって、なんでシオンなのーーーッ!?
あんな色情魔に惚れるなんて、不潔よおお!!」
『せめてプラトニック・ラブが期待できる隊長さんにしてぇ〜〜〜!!』・・・などと問題解決にもならないことを叫び散らすメイ。あれやこれやとアヤシイ想像が脳裏で渦巻き、16の乙女は混乱の極致にあった。
一方ならず世話になっているキールのこと。なんとか事実を受け止めてやりたい。力になってやりたい・・・のだが・・・。
「いやああああ!!駄目よ駄目なのよキール!!
お母さんやお兄さんが悲しんでるわッ!!帰ってくるのよぉぉお!!
そんな、一部のファンが喜ぶような世界に旅立っちゃ駄目えぇぇ〜〜〜ッ!!!」
夕日に赤く染まる湖に、少女の叫びが木霊する。
清らの聖霊たちは、そんな彼女をひっそりと見守っていた・・・。
その頃、キールは。
まだ突っ立ったまま、ぼんやりと考えている。
『メイも、ああいう女っぽいモノが好きなのかな・・・』
見るべきは、ピンク一色にまとめられた花束。
彼の視点では、シオンも相手の女もアウト・オブ・眼中である。レース模様の包み紙とリボンで整えられた愛らしい花束に、彼の瞳は釘付けになっていた。
「・・・誕生日、か・・・柄じゃないが・・・」
漏れ聞いた(どこで聞いたかは内緒)ところによれば、来月の下旬はメイの誕生日だという。遠い異郷で年を重ねなければならない彼女が不憫で、少しでも心の慰めになるようなことをしてやりたいが・・・慣れぬ身では、年頃の少女が喜ぶようなものなど見当もつかず、途方に暮れていたキールだった。
メイは可愛い。メイが可愛い。
優しくしてやりたいのに、恋しているのに。どうやったら伝えられるのだろう?
アブノーマルだと勘違いされてるぞ、何とかしろ!!という天の警告など聞こえていないのか、プレゼントを渡した時の少女の笑顔を想像して、青年はほんわかと幸せに浸るのだった・・・。
その夜。
「駄目よキール!!その若さで人生捨てちゃ、絶対ダメだからねッ!!!」
「だから一体何なんだお前はッ!!」
訳が分からなくなりつつも、涙で瞳をうるうるさせたメイに力いっぱい抱き着かれ、理性ぶっ飛び3秒前まで追いつめられるキールである(早く誤解を解け!!)。
こんな調子でカップルになれるのかお前ら・・・という作者の危惧を余所に。
クライン王国の夏は、今年も平和に過ぎてゆくのだった。
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