3度目の涙

行子 様

ライン


「・・・・・・・・・・・・・おい、メイっ」
「・・・・んー・・・・・」

春のポカポカした陽気に誘われて眠くなったのだろうメイは課題を広げた机の上に突っ伏すようにして眠りに落ちていた。

柔らかな日差しがさらさらとした茶色の髪にあたってきらきらと反射している。

まぶしさにほんの少し目を細めるとキールは課題を枕にしているメイを起こそうと再び声をかけた。

「メイっ、起きろ!」
「・・・・んっ・・・・・きー・・・・る?」

わずかに開いた唇から自分の名がもれたことに驚いて思わず固まってしまう。
そしてほんのわずかに動いただけで再び安らかな顔をして眠りに落ちたメイに向かって微笑んだ。

ディアーナがみたら・・・・・・・いや、他の誰でも我が目を疑いそうなほど優しい微笑みを浮かべたキールは1年前よりもだいぶのびたメイの髪をほんの少し指にからめる。

そして起こさないように注意深く、静かに隣りに座った。

「・・・・・これで2度目の春だな・・・・・・」

初めての春は印象最悪・・・・・・だった。予想外に呼び出してしまった異世界人。姿を見ると小言ばかり、説教ばかりの日々・・・・・それでも少しもこたえた様子を見せないメイに、正直言ってこちらの方がまいってしまいそうだった。

最初の3ヶ月、なんで自分はこんなものを呼び出してしまったのだろうと悔やむことが数十回、そしてその後呼び出せたことへの喜びをその何倍も感じた。

「運命なんて大っきらいだけど・・・・お前に会えたのが運命だとしたらそれに感謝しなくちゃな」

そういうとキールは指にからめたメイの髪に唇をよせ、少し強めに引っ張った。


「・・・・・いたっ・・・・・もうっ、誰よっ!」
「・・・課題を枕にしていた奴が言う言葉ではないな」
「キール?!」

大きな目を目一杯見開いてこちらを見つめる様子に苦笑を隠せない様子のキールはポンポン、とメイの頭をたたいた。

「たった半月なのにもう俺のことを忘れたのか?」
「・・・・忘れるわけ・・・・ない・・じゃない」
「じゃ、もっとちゃんと顔を見せろよ・・・」

泣き出しそうになるのを必死でこらえて、うつむくメイの顎を男にしては繊細な指がとらえる。

「やっ・・・・・・」
「や、じゃないだろ?」

首を振って逃れようとするメイの顎をとらえたまま、半ば強引に上向かせる。

メイの瞳はすでに涙が溢れそうになっていて、唇をかみしめて必死に押さえ込んでいる。

「・・・・泣かないって約束しただろ?」
「泣いてないもんっ。これはちょっと目にゴミが・・・」
「そうか?じゃあ、みてやろうか・・・」

そういうとキールはいきなりメイの大きな瞳に唇を寄せた。

びっくりして目を閉じたメイの瞳から、かろうじてとどまっていた涙が流れ出す。

優しく両の瞳にキスを落としたキールが離れると、メイは流れる涙を止められなくなっていた。

「・・・・泣くなよ」
「・・・・・だって・・・キール・・・」
「・・・仕方ないな。まぁ、俺が帰ってくるまでの約束だったからな。・・・・・ほら、来いよ」

キールがそういって両手を広げるとメイはキールの腕の中に飛び込んできてわーわーと泣き始めた。

優しく背をなでる手も、しっかりと受け止めてくれる腕も全てが・・・・ホントにキールで、なかなか涙が止まらなかった。


「・・・・これでお前を泣かせたのは3度目だな」
「3回?」
「最初はお前の持ち物を壊した時、2回目は俺がダリスにいく前の晩・・・・」
「!・・・・あれ・・・みてたの?」

あの日、どうしても一緒に行くことを許してもらえなくて・・・・隣でキールが眠りについたのを確認してからこっそり泣いたつもりだったのに・・・・

「・・・俺はお前を戦場には出したくなかった。それにちゃんとお前の所に帰ってきただろ?」
「・・・・・・うん。・・・それでも」
「行きたかったんだろ?・・・・俺はお前に戦って欲しくなかった。だがそれだけじゃなくて・・・」

そこで言葉を切ったキールを見上げようとしたメイの身体を力強く抱き締めると、言葉を続ける。

「・・・夢をみたんだ。お前が・・・戦場でいなくなってしまう夢。どんなに掴もうとしてもお前がすーっと消えていって・・・怖かった。だから・・」
「消えないよ・・・・キールのこと選んだんだもん」

そういうとメイはキールに向かってにっこりと微笑んだ。

キールはほんの少し苦笑してから、ゆっくりと顔を近づける。

瞳を閉じたメイの唇に静かに、唇を重ねていった。
ふれあうぬくもりを確かめるように・・・・・

ライン

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