十三夜

久方蒔様

ライン

歩く台風、傍若無人のクラッシャー。
その他もろもろ、年ごろの少女に相応しくない称号を得た異世界からの来訪者。
とは言いつつも、半年もここ――クラインの魔法研究院で暮らしていれば、
自然と知り合いはできるもので、

10月にもなれば、夜は冷え込み寒いもの。
寝る前に少し温まろうと、厨房でホットミルクを入れていたメイは、
緑の肩掛けをした魔導師に呼び止められ、書類をぽんと渡された。
「君、悪いけど、これキールに渡しておいてくれないか?」

このようにキールへの渡し物を頼まれることも、まあ珍しいことではない。


コンコン・・・コンコンコン・・・ガンガンッ・・・ガッガッ。
何度目かのノック。
「キール? キール居ないのぉ?」
ノックしても返事のないので勢いよくドアを開け、部屋に入るメイ。
(相変わらず、散らかってんなぁ)
そこここに積まれた魔導書に、呪文を書いた巻物の類。
オーブに、得体の知れぬ鉱石の数々。
足の踏み場しかない床に気をつけつつ、メイは慎重に歩を進める。
何しろどれかひとつ一つでも壊したら、どれだけのお説教が待っているか。
・・・思いっきり実証済みだ。
本棚の向こうの書斎にはほのかに明かりが灯っている。
「キール?」
細かい性格のあの保護者が、明かりを消さずに出かけることなど無いだろう。
訝しげに、ぴょこんとそちらをのぞき込む。
(・・・珍しーっ・・・)
閉じられた瞼。淡い陰影を落とす長いまつ毛。
積まれた本にもたれ掛かるようにして、キールがうたた寝をしている。
どうせ、また徹夜でもしたんだろうと呆れ半分ため息を付き、空いた場所に書類を置く。
(・・・結構冷えるよね?)
部屋の中とはいえ、このまま放っておけば風邪を引きそうな程度には冷え込む。
むー、とちょっと考え、クローゼットを勝手に漁りマントを取り出す。
起こすのはちょっと勿体無い。
だからそうっとマントを掛ける。
(こうやってると、文句なしに綺麗な顔なんだけどなーっ)
さらさらとした亜麻色の髪。整った顔立ち。
閉じられている瞼の奥は、翠の宝石。
人当たりの悪い性格故に近づく女性は少ないが、実は結構もてているのもメイは知っている。
(まあ、性格で割り引かれるけど)
このまま部屋に帰ろうとは思うものの、なんとなく離れがたい。
でも、じーっと見ていると、むくむくといけない心が湧いてくる。
(・・・起きるかな)
そう思いつつ、キールの髪を梳いてみる。
指通りの良い、さらさらの髪。
少し嬉しくなって、何度か繰り返す。

自分の気持ちを口にすることは無いだろうけど。
今くらいは、この時だけは。
ちょっとくらい素直になっても良いかもしれない。

「あんまり無理しないでよ?」
起こさないように囁いて。
優しい微笑みで部屋を出る。

ぱたんとドアが閉まった後に。
顔を押さえて、大きく息を吐くのは彼女の保護者。
「・・・・・・」
頬に触れた、柔らかい感触。
(無理するなって・・・それこそ無理だろ・・・)
顔に浮かぶのは、苦しいような哀しいような微笑み。
「帰してやるって、約束しただろ・・・」
それに気づかないようにそっと蓋をして、開いた書物に向き直る。
(あと少しで完成なんだ・・・あと少しだけ)


運命の日まであと少し。
それはまだ、月が満ちる前の情景。

ライン

PresentStoriesのトップページへ

トップページへ